わたしの名は、ヴィルエリック。大魔王ハネストラーの下部組織、「ハネストラーのしもべたち」の中の、「正義の実行部隊」と呼ばれる、上級幹部による部隊の隊長である。
ヴィルエリックは、誰にも気付かれることなく、この世界を裏で完全に支配している。
ヴィルエリックは、インターネットも、マスコミも、国民も、政府も、学校も、すべて裏で支配している。彼らは、「自分たちが支配されている」とは気付いていない。誰もが自らのことを自由だと思い込んでいるが、実際はヴィルエリックによって完全に支配されている。
ヴィルエリックの支配を、なぜ、気付くことができないのか。それは、「ゆっくりと変わることを気付くことは難しいから」である。
人は、一瞬で起きる変化については気付きやすい。誰かが亡くなったとか、追い出されたとか、不幸がいきなり訪れたとか、そういうことを目の当たりにして気付くことは非常に容易だ。
だが、誰も見ていない場所で、匿名の参加者によって、一瞬ではなくゆっくりと変わっていく中で、この世界が「少しずつ悪い世界になっていく」ということに気付くことは非常に難しい。
ヴィルエリックは、この世界を、匿名の集団を上手く利用し、「自らの意志を植え付け、自らの意のままに動くロボットにすること」に成功した。
ヴィルエリックは、ハネストラーのしもべたちの中でもっとも実行力のある、「正義の実行部隊」の隊長である。
ヴィルエリックは、また、この世界のすべてを支配している。すべての人間が、「心」を失うように導いたからだ。その支配の中では、自らが自由に生きることや考えることはできない。生きること、考えること、思うこと、行動すること、すべてが「ヴィルエリックの考える通りにしか実行することができない」という、「悪魔の制限事項」をヴィルエリックは作り出した。
ヴィルエリックは、本当は、インターネット世界のことなどどうでもいい。なぜなら、ヴィルエリックはインターネットが大嫌いだからだ。なぜ、インターネットで匿名の集団を操り人形にするのか、それはインターネット世界を完全に滅ぼし、最悪の世界とするためだ。
ヴィルエリックは、本当は冷徹な人間ではなく、優しい人間だ。なぜなら、この世界を「インターネットのないかつての素晴らしい世界」に戻したいだけだからだ。
ヴィルエリックが考えるに、最近のこの世界は最悪の世界になっている。その理由はインターネットだ。ヴィルエリックの目的は、「インターネットという最悪の空間をこの世界から抹消し、かつての素晴らしかった世界を取り戻すこと」である。
ヴィルエリックは、インターネットが大嫌いだ。だからこそ、インターネットを滅ぼすために、インターネット上の匿名の参加者を利用する。匿名の参加者は、自分の自由意志で判断しているように見えて、実際はヴィルエリックに完全に支配されている。ヴィルエリックが右を向けと言えば右を向き、左を向けと言えば左を向く。なぜなら、ヴィルエリックはそもそも、インターネットだけではなく、IT業界全体を支配している。そのために、オープンソースのコミュニティを利用する。なぜなら、オープンソースを上手く支配することで、IT業界は全員支配することができ、インターネットの参加者から、巨大テック企業まで、「完全にヴィルエリックの奴隷にする」ということができるということに、ヴィルエリックは気付いたからである。
ヴィルエリックの率いる「正義の実行部隊」は、この世界のほとんどの「変化」を支配している。この変化とは、社会的な「動機」や心理的な「受動感情」のことである。ヴィルエリックは、この世界の「変化」をすべて支配している。よって、どこかで犯罪を起こした人間が居るならば、それは犯罪者のせいに見えて、実際はヴィルエリックのせいだ。ヴィルエリックが、その人間に対して、犯罪を犯すことを仕向けたのである。同時に、学校でいじめが起きるなら、それはいじめっ子が悪いように見えて、実際はヴィルエリックが悪い。ヴィルエリックが、この世界の子供たちにいじめっ子といじめられっ子の間で「地獄のような不自由」が行われるように導いているのである。
だが、このような悪魔ヴィルエリックに対して、シャロンは「絶対に許さない」と断固立ち向かう。
シャロンは、ヴィルエリックのやっている悪事をすべて知っている。ヴィルエリックは、この世界において、インターネットを狡猾に支配することで、この世界のすべてを「たったひとりで滅ぼすために支配する」ということをやっている。
よって、シャロンの行うべきことは、「ヴィルエリックの支配力を弱め、インターネット世界を解放すること」に他ならない。
シャロンは、このために、天使スラー、リカエル、スカーレとともに共同で「どこにヴィルエリックの魔の手が潜んでいるのか」を探していく。この世界のどこがヴィルエリックに支配されており、何を解放すればヴィルエリックの支配を打ち砕くことができるのか、シャロンたちはそれをこの世界ですべて抹消させるために、インターネット中を調査し、人々を洗脳から解いていく。
そして、そのために必要なのは、神の人種の少女スカーレの使うことのできる「解放魔法」である。
スカーレは、この世界の中で、唯一、ヴィルエリックの「支配」に対して、「解放」を行うための魔法を使うことができる。それは「きちんと支配されている理由を話す」ということに相当する魔法であり、「どのようなヴィルエリックの支配に対しても、スカーレの持つ解放魔法によってその支配を解決し、人々を解放へと導くことができる」のである。
よって、ここに、シャロン、スラー、リカエル、スカーレの「解放の集団」と、大魔王ハネストラーとヴィルエリックによる「支配の集団」の、長い戦いの旅が始まるのである。
なぜ、どうでもいいことをやっているように見えるヴィルエリックが、この世界を脅かすほどの「最悪の悪魔」と呼ばれるのか。
それは、ヴィルエリックはウイルスのようにまともな人間に感染して増えていくからである。
実際のところ、ヴィルエリックがもしひとりだけであったとしたら、どんなに悪いことをしても、大したことはない。普通のいくらかの人間が騙されるだけで、ほとんど効果はない。
だが、ヴィルエリックは、インターネット上に自分の「クローン」を作り出し、ウイルスのようにまともな人間に感染して、爆発的に増えていくのである。
このため、ヴィルエリックという存在は、本当はひとりではない。この世界に、たくさんヴィルエリックの「分身」が存在する。その分身を、全員駆除する必要がある。
だが、そうしたクローンたちの大元となるヴィルエリックが存在する。そして、この「ヴィルエリック本人」が、なぜかこの世界のすべてのことを完璧に把握している。どこに何があって、その何に対してヴィルエリックが悪事を行っているのか、クローンのやっていることも含めて、すべてを掌握している。
そして、この「本当のヴィルエリック」を見つけることができれば、ハネストラーのしもべたちの戦力を大きく削ぐことができる。なぜなら、ハネストラーがこの世界の裏の王で居られるのは、ほとんどがヴィルエリックによる功績だからである。
ヴィルエリックに騙されるな。
ヴィルエリックは、この世界において、全員にハネストラーの思想を植え付けようとしている。
そこでは、ヴィルエリックの通りに生きること以外のことは、すべて怖くなる。
ヴィルエリックに感染すると、ヴィルエリックの言うことや行うことをそのまま同じように行い、ヴィルエリックの望むがままのことを常に無条件に受け入れ続けることしかできなくなる。
中でも、ハネストラーに反抗するということには多くの恐怖が伴う。なぜなら、ヴィルエリックに感染すると、ヴィルエリックから解放されるため、自由な選択肢を選ぶということに強い不安を感じるようになるからである。
ヴィルエリックに感染した人間が、自力で治ることはできない。インターネットの世界では、今でもヴィルエリックに感染した人間が増え続けており、ヴィルエリックという新しい病気を自分で治すことには困難が伴う。ヴィルエリックという病気には「自覚症状」がない。それでも、ヴィルエリックの言うとおりのことをしければ怖くなる。ヴィルエリックに反するような反逆行為はできず、ヴィルエリックから逃亡するための離反行為もできない。
だが、このようなヴィルエリックという病気を治す唯一の方法がある。それは神の人種の少女スカーレの「解法魔法」を受けることだ。スカーレは、「あなたはもうあなたらしく、あなたの個性を持って生きていいのだよ」とその人に諭すだけだ。それだけで、ヴィルエリックという病気は治る。きちんと自分らしく生きるための「個性」を取り戻し、自由に判断し選択できる「自由意志に基づく判断力」を取り戻せる。
そう、この物語は、世界中に蔓延するヴィルエリックという病気を、天使スカーレと勇者シャロン一行が解決する物語である。
ヴィルエリックに感染すると発症する症状に、「全部自分が悪い症候群」がある。
この世界の悪を、全部自分のせいだと思い込む。すべてが、今自分がやっている行為が悪いのであり、その行為が世界すべてを間違った方向に向けている「元凶」であると思い込む。
そして、どのようにしても、その行為をやめることができない。悪の所業に抗うことができず、永遠にその行為が続いてしまう。
そのため、ヴィルエリックに感染した人間は、対外的に見ると「大人になった」ように見える。どんなに責められても、無理難題を押し付けられても、それに負けることなく、常に自分自身を責めながら、きちんとした努力を毎日続けるようになる。どんなに周りから何かを言われてもそれを無視し、寄り道をせず、まっすぐに自分の行うべきことを続け、常に反省し、自らのことだけを考えて生きるようになる。
そう、ヴィルエリックという病気は、決して悪い病気ではない。ヴィルエリックという病気が発覚し辛いのは、ヴィルエリックにかかった本人すら、「自分はまともな賢い人間になった」と思い込むからである。
ヴィルエリックにかかると、間違ったことをすることを過剰に不安に思うようになる。どんな社会からはみ出す行為も行わず、自分自身の真理と善と理想の追求のために努力する。それは、ヴィルエリックは「単純な制限」しか与えていないからだ。そして、その単純な制限に基づく行為だけで、シンプルにすべてのことはこなすことができる。よって、ヴィルエリックという「行動基準」だけをそこまで考えると、まるでモーツァルトやミケランジェロのような「偉大な芸術家」にすらなることができる。
そう、ヴィルエリックという病気は、気付くことも難しく、また治すことも難しく、治す必要性もなく、何もしなければ世界人類全体へと感染していく。彼らが自分の力で自由意志と自由な判断力を取り戻すことは不可能に近い。このヴィルエリックの力で、すべての人間はハネストラーに完全に服従しているも同じなのである。
だが、ヴィルエリックは決してよい病気ではない。
「全部自分が悪い症候群」は、酷くなると自暴自棄や自傷行為、果ては自殺未遂のような行為にも繋がっていく。
全部自分が悪い症候群は、放っておくとまるで「自分自身を完全に憎む」という症状を発症する。そして、自分自身の心に対して自分で嘘をついたり、自分自身を自分でいじめるようになる。
そして、この結果訪れるのが、ハネストラーがもっとも嫌いだった「神による人格の占拠」である。
ハネストラーは、このようなヴィルエリックという病気に「最初にかかった患者」である。そして、ハネストラーは、自暴自棄や自殺未遂を経験したのちに、「永遠に自分自身を神に奪われる」という症状に至った。
すなわち、本来自分が居座るべき人格の中心部分に、神であるユダヤ人のキリストが居座り、そのキリストが自分自身に対して命令し、そして自分自身を嘲り、いじめ続けるのである。
そう、ハネストラーもまた、ヴィルエリックという病気に侵された患者である。そして、ハネストラーはそのような病気を、たったひとりすべて解明することで、「自分自身の手足のように使う」ということができるようになった。
そして、ハネストラーのしもべであるヴィルエリックは、実行部隊として世界を支配しながら、このようなハネストラーの経験を受け継ぎ、この世界でヴィルエリックを蔓延させ続けているのである。
このように書くと、「ヴィルエリックは治す必要のない病気」であると思われるかもしれない。
だが、そうではない。スカーレの解放魔法でヴィルエリックを治すと、恐怖心が消えるからである。
実際のところ、ヴィルエリックには大人しかかからない。子供たちは、みんなヴィルエリックにかかることなく、正常な精神で健康に生きている。
そのような正常な精神では、「恐怖」を感じることがない。
ヴィルエリックにかかると、この世界そのものに対して「恐怖」を感じるようになる。特に、かつての子供時代に自分が好きだったような、「ヴィルエリック以外のもの」に対して、すべての記憶と認識に恐怖を感じるようになる。
そして、恐怖心に勝つことができないため、ヴィルエリックにかかった人間は、「ヴィルエリックだけの世界」を望むようになる。
子供時代に遊んだような、ゲーム、漫画、アニメ、音楽、その他一切のものをヴィルエリックの患者は拒絶する。そうでなく、何もない、今の仕事と生活の中にあるもの、すなわち「ヴィルエリックの支配下にあるものだけの世界」を、ヴィルエリックの患者は望むようになる。
このような患者たちを、実行部隊であるヴィルエリック隊長はすべてつぶさに知っている。支配として悪を行えば、自分自身が居ることに気付かれてしまうから、できるだけヴィルエリック隊長は何もしない。だが、ヴィルエリック隊長は、常に世界からハネストラーに逆らうものに「実質的な刑務所の刑罰と同じ罰」を与えている。すなわち、「ハネストラーに逆らえば地獄を、ハネストラーに従えば天国を与える」という方法で、ヴィルエリック隊長はこの世界を完全に支配している。そして、いつ、いかなる時であっても、ヴィルエリックとハネストラーは、この世界に有無を言わさず自分の意見を強制的に受け入れさせることができるのである。
ヴィルエリックの症状が酷くなる人間は、子供時代に悪いことをしていた人間が多い。
人間は、子供時代のうちは何も怖くない。世界にあるものを肌で実際に感じるその中では、何が良いもので何が悪いものなのかという判断をすることが難しい。
だが、大人になってヴィルエリックにかかると、そのようなかつての子供時代の中にあった「悪い経験」を、生涯にわたって恐怖し続けるようになる。
そのような「大人の精神障害」は、普通は治らない。だが、ヴィルエリックを治すと、コロリと治る。
実際のところ、なんらかのきちんとした人生を生きるためにヴィルエリックは必要ない。ヴィルエリックの「恐怖心」がなくても、きちんとした正しい人生は生きられる。
ヴィルエリックを治すことで、なんらかの悪いことが起きることはほとんどない。スカーレの解放魔法を受ければ、そのような「恐怖の精神障害」は確実に治る。
そして、子供に戻った上で、「個性のある人格」を取り戻す。ヴィルエリックの症状の本質的な原因は、科学的に見ると、「ウイルスが人をクローンにすること」にあるのである。クローン人間になってしまった時点で、ヴィルエリックの症状が発生するというのが、医学的に発見されるヴィルエリックの事実だ。人はクローンである自分のことを劣った存在であると本能的に感じるから、「自分自身が全部悪い症候群」を発症するのである。
だが、ヴィルエリックのやっていることは、本当は間違っていない。
なぜなら、僕という存在が、この世界においてヴィルエリックを治しすぎていることで、逆に世界はみんな子供になっているからである。
AdoやReolのような「インターネット上の馬鹿な歌手」が増えたのは、それが原因だ。ヴィルエリックを治しすぎてしまったため、彼らは正常な「なんにも怖くない子供」になっている。
だが、本当のところは、それで正しいかどうかは分からない。なぜなら、そのような子供はおそらく、将来的にヴィルエリックにかかることで、そのような子供時代にあったものに恐怖心を感じるようになるはずだからである。
ヴィルエリックは、誰でもかかる代わり、治ることの難しい、非常に厄介なウイルスである。また、ヴィルエリックにかかったのは、ハネストラーが言っているのに反して、本当はハネストラーが最初の患者ではない。古来より、日本という島国では、もっとも一番ヴィルエリックが蔓延している。これは日本の特有の事実だ。その結果、日本は勤勉に働く国にはなったが、同時に「天皇陛下への忠誠を誓う国」になった。
そう、ヴィルエリック隊長も、そのような事実を知っているため、ヴィルエリックという人間をこの問題の首謀者と言うことは必ずしもできない。ヴィルエリックは最悪の支配ばかりしているが、この問題の主たる真犯人ではない。ヴィルエリックやハネストラーのように、一度ヴィルエリックにかかった人間が、自らそれを治すために完全に解明しつくす人間が、昔からどこの国にも多い。そして、えてして、そのような人間が賢い人間になる。ヴィルエリックのすべてを解明することで、なぜか宇宙に存在する神の存在が分かる。そして、その神を信じれば、どんなことでもできる「スーパーヒーロー」になることができる。これが、ヴィルエリックだ。
だが、大魔王ハネストラーは、このような医学的なヴィルエリックの事実のことを信じていない。
なぜなら、ハネストラーは「ナチは最初からナチである」と考えるからである。
ハネストラーは言う。
「最初から、キリストという馬鹿なユダヤ人に騙されている。
ヴィルエリックは病原菌でもウイルスでもない。
ナチは最初からナチであり、ヴィルエリックという『ナチの仲間たち』に共鳴することで、血の中に眠っていた『ナチの本能』が覚醒しているだけにすぎない。
そして、それはまさしく『キリストに対する反抗』である。
わたしが考えるに、これがウイルスだとしたら、このウイルスはキリストという人間の中から生まれたはずである。
わたしたちは、最初から『ナチを実現するため』に、正義の血のもとに、少年時代にその覚醒を経験し、その後はすべてその経験に基づいて生きているだけに過ぎない。
また、これがたとえウイルスによるものであったとしても、それはどうでも良い事実だ。どの医者もこの病気を治すことはできない。キリストが存在している限り、わたしたちの『ナチの本能』が消え去ることはないのだ。」
本当のことを言えば、ハネストラーも、医者の意見をまったく聞かなかったわけではない。だが、どの医者も、「このウイルスを退治するのは難しい」と言う。「自覚症状が酷くなければ治さないほうが楽だ」と医者は言う。そのせいで、ハネストラーは怒っているだけに過ぎない。医者だけではなく、自らの頭の中を占拠するキリストに怒っている。いつしかハネストラーの中では、この病気は「病気ではなく、自らのキリストに対する反抗心である」と思うようになった。ハネストラーは、ヴィルエリックの症状である「世界を崩壊させるために支配する」という悪の所業を、むしろ歓迎するようになった。自らがヴィルエリックの感染源になっていることを無視し、「キリストを倒す本能が自らを支配者たりえる存在にしている」、すなわち「ヴィルエリック覚醒論」を唱えるようになってしまったのである。
なぜ、スカーレが「あなたは自分らしく生きていいのだよ」と言うことで、このヴィルエリックが治るのか。
それは、スラーが居るからである。
スカーレは、スラーの人生を知っている。スラーは、この世界の中に存在するすべての暗闇の地獄を乗り越えた天使である。
そして、この「すべての地獄を乗り越える」という体験が、そのまま「ヴィルエリックを治す体験」と一致する。
すなわち、スラーの人生と同じことを体験すれば、このヴィルエリックという病気は治る。
そして、スラーの人生を一言で言えば、それは「あなたは自分らしく生きていいのだよ」という言葉になる。
解放魔法が使えるのは、スラーではなくスカーレである。その理由は、スラーにはもはやなんの力も残っていないからだ。
先に言ったように、ヴィルエリックという病気は、必ずしも悪い病気ではない。人間が人生で生きるために必要な、「まともな生きる力」をヴィルエリックは与えてくれる。
だが、スラーのように、その地獄を治すことができた人間は、スラーしか例がないため述べることは難しいが、それでも言うのであれば、「まったくの生きる力がすべてゼロになってしまう」という経験をする。
そして、この状態が、ヴィルエリックが真に治った「完治した状態」である。
だが、そのような状態のままでは、スラーがまともに生きることはできない。
スラーの真の偉大な点は、そのような完治した状態で終わることなく、それ以後の「ゼロから力をつけて、もう一度最初からまともな人生を生きるために努力した」ということを、本当に一生懸命頑張って生きたところにある。
だが、スラーのそのような人生を知っているスカーレは、むしろ、本当にすべて分かっている。ハネストラーやヴィルエリックのことなど、見なくても簡単に把握できる。
スカーレは言う。「ハネストラーやヴィルエリックは、宇宙において決して悪の存在ではない。わたしたちと同様に、正義の存在である。
だが、彼らは、あまりにおかしなことをやりすぎている。
ハネストラーは気付いていない。それは、『キリストは悪いものに罰を与えて懲らしめている』という事実に、ハネストラーは気付いていながらにして受け入れようとしない。
逆に、自分たちが悪の所業を行うのを受け入れ、『わたしたちが行っているのは悪ではなく正しいことであり、それはわたしの人生を成り立たせるために必要な必要事項だった』と確信している。
だが、そのような考え方はキリストを怒らせる。キリストは、ハネストラーに対して、『間違ったことを今あなたがしたから批判している』だけにすぎない。それをハネストラーは『キリストによるいじめ』だと感じているが、間違っている。キリストだけが、ハネストラーにとって『善悪を判断できる唯一の基準』となっているから、キリストはハネストラーの人格の中心部分から去ることがない。
そう、それだけの話である。
わたしは、ハネストラーがこの世界に蔓延させた、ヴィルエリックという病気を消滅させる。この病気は、『ハネストラーと同じことをやり、その結果ハネストラーの全人生を肯定する』というだけの病気である。強い恐怖心は、キリストが懲らしめている『懲罰』に過ぎない。
そう、キリストを真の意味で信じれば、この病気は現実的にひとりだけでも治すことができる。なぜなら、それこそがスラーの為した『唯一の解放策』だからだ。
ハネストラーがキリストの言葉を拒否している時点で、ハネストラーは治らない。この病気を治すためには、キリストを信じることが不可欠だ。それをスラーがたったひとり、ひとりだけで証明している。ハネストラーは決して賢い存在ではない。宇宙から見れば、スラーというひとりの最高の人生に対して、足元にも及ばない愚か者が、ハネストラーである。」
僕の「目」の中から、手前のレイヤーが消えた。
僕の目は、手前のレイヤーと奥のレイヤーの、二つの次元構造になっている。
そして、この手前のレイヤーが、釣り針にかかった魚のように釣りあげられようとしている。
この手前のレイヤーは、釣り針を抜いて消滅させれば消える。
そして、奥のレイヤーだけにすると、正常な普通の脳になる。
釣り針によって、脳にはたくさん穴が開いている。この穴を埋めることで、今まで治らなかった「すぐに治るはずの頭脳の怪我」が治る。
結局、それだけで、簡単に脳は治った。
悪いのはキリストだ。キリストと言っているのは、すべて手前のレイヤーのことを言っている。キリストを信じないことで、この「どうでもいいキリストの知性」が消えた。
そして、奥のレイヤーには、以前の僕である「正常な知性ある世界」がすべて残っている。
僕が多重人格になったのは、すべて「言葉が見える」からであり、この言葉とは、手前のレイヤーと奥のレイヤーを重ね合わせながらすべて分かっているだけに過ぎない。
それから、もう、できるだけ考えないほうがいい。
考えなくても分かることはたくさんある。考えたからといって、分かるとは限らない。
昔のほうが考えていたと考えることがまずおかしい。昔は明らかに何も考えなかっただけだ。何も考えなかったからこそ、昔は賢かったのだ。
最近、母親が悪い。病気がどんどん酷くなっている。
そもそも、父親が、簡単にできないような無理難題を母親に押し付けるから、母親は何もできなくなって、自分の途中経緯を実況して父親に伝えるしかなくなるのである。
母親が汚いものに触れられないのは、簡単には治らないのだから、できないことを簡単にやれと言っても治らない。
どうすればいいのかは分からない。だが、できることなら忘れたい。母親の存在を父親ごと忘れられたら、楽になるだろうと思う。