この物語は、今の地球生物の種の先にある、新しい生物たちの物語。
未来の地球においては、地球を支配しているのは、人間という一種の生物種ではない。人間よりも進歩した、さらに強大な生物種が存在し、人間はそれら新しい生物種と共存し、あるいは、時には対立して生きている。
未来の生物種が生まれるに至ったのは、生物学上の偉大な新発見である。
この新発見は、二つの発見から成る。
ひとつは、生物種のDNAが完全に解明されたこと、もうひとつは、iPS細胞のような再生細胞の技術から、まったくゼロから生物の細胞を作ることができるようになったことだ。
しかしながら、この発見は、人類史における科学上の進歩によって行われたわけではない。
そうでなく、ひとりの学生が独自に行った研究による発見から、そのような「人工生物の創造」を行うことが可能になった。
それを行ったのは、日本の京都大学の女子大生、九魔星蓮子である。
九魔星蓮子は、京都大学の理学部生物学科の学生であり、ゲノム解析の研究室で、遺伝子とiPS細胞の研究を行っていた。
九魔星蓮子は考えた。「生物のDNAは、たくさんありすぎて、人間の力では実験や証明では解析できない。どうにかできないだろうか。
人間の力で解析できないのであれば、コンピュータの力を借りることはできないだろうか。
そうだ、AI技術を使って、DNAの複雑なパターンを、アルゴリズムと機械学習の力で、自動的に解析できるようなプログラムを書いてみよう。」
そして、そのようなAIを使ったDNAの解析により、九魔星蓮子は、「生物の創造に関わるゲノム情報」を見つけることができた。
もしかしたら、このゲノム情報を使って、たとえば単細胞生物のアメーバのような生物を、iPS細胞のような再生細胞の研究結果を応用して、自分で作ることができないだろうか。
九魔星蓮子は、そのために、アメーバやミドリムシのような生物を自ら作ろうとしたが、何十回それを実現しようとしても、上手くいかなかった。
九魔星蓮子は考えた。「人間の手で単細胞生物を作ろうとしても、さまざまな可能性の中から正しい細胞の成り立たせ方を考えるために、何十回や何百回という回数では実験できない。
人間の手で実験できないのであれば、やはり、コンピュータの力を借りることはできないか。
そうだ、AIを使ったシミュレーション技術を開発して、シミュレーションの中で、何千回、何百万回、何十億回というシミュレーション結果を学習させ、そこから、正しい単細胞生物の細胞を作ってみよう。」
そして、その結果、九魔星蓮子はなんと、単細胞生物のアメーバやミドリムシを、iPS細胞のような再生細胞から作り出すことに成功した。
九魔星蓮子は、この実験結果が、とても素晴らしいものだと思って、論文を書こうと思ったが、それを書こうとした時に、勘が働いた。
「この実験結果を発表すれば、素晴らしい成果であると評価されるかもしれないが、今はまだその時ではない」「今はまだ秘密にしておかなければならない」という、どこからか天の声が聞こえたのである。
九魔星蓮子は、さらに実験を推し進める。多細胞生物の創造にも成功した。最初に成功したのはヒドラだった。それから、小さなアンモナイトの亜種のような生物種の創造にも成功した。このアンモナイトは、古生代に存在したアンモナイトから、少しだけ遺伝子を改変したものだった。そのように、既に存在する生物種ではなく、いくらか遺伝子を改変した生物種すら、AIの力で創造できるようになった。
九魔星蓮子は考えた。「もし、新しい生物種を作るのであれば、どのような生物種を作るのが、自分にとって一番いいだろうか。
それは、わたしを助け、わたしに従い、わたしの力になってくれるような生物種だ。
そうだ。わたしは、わたしに従順に従い、わたしの命令に従うような、わたしひとりに完全に従属するような生物種を作ろう。」
その結果、九魔星蓮子は、熊のような生物種を改良した、新しい「ロボット熊」のような生物を作った。熊を選んだのは、彼女の名前である「九魔星」から由来するものである。
そして、九魔星蓮子は、その時、この発見を秘密にし続けた意味が分かった。
すなわち、この発表を公にしてしまうと、自分以外の誰もが同じ発見をして、ロボット生物を誰でも作れるようになってしまう。
だが、この発表を秘密にしたことで、ロボット生物を作る技術を独占し、自らだけが最強の勢力となって、世界を支配する女王になることができる。
九魔星蓮子は、その後も、何年もの間研究を続け、ついに、人間をはるかに上回る力を持った、しかしながら自分の自由を持たず、九魔星蓮子ひとりに絶対に従属するようなロボット熊をたくさん作り出した。
そして、九魔星蓮子は、日本の領土を侵略することを選ぶ。九魔星蓮子はロボット熊の勢力を従えて、日本政府にテロを起こす。その理由は、ロボット熊の勢力には絶対に人間の勢力では勝てないということが確実にAIのシミュレーション結果によって分かったからだ。
九魔星蓮子はやがて、日本の西日本地域、具体的には神戸よりも西あるいは南にある地域に、「九魔王国」と呼ばれる王国を築く。そして、九魔王国における女王となり、世界人類から「恐るべき生物学の逸脱者」として名を知られることになるのである。
この九魔星蓮子に立ち向かうのが、われらが黒風兄妹である。
黒風兄妹は、九魔星蓮子に支配されることのなかった、東日本より、九魔星蓮子と九魔王国を打ち倒すために、日本人のみんなとともに立ち上がる。
九魔星蓮子に対して、どのようにしたら勝てるのか、多くの人々が考えた。そして、そのどれもが上手くいかなかった。
だが、黒風兄妹は、九魔王国のロボット熊を打ち倒すために、「神の力」を使う。
すなわち、黒風ミキの持つ奇跡の力は、未来予知だけではない。黒風ミキは天界にいるさまざまな存在とコミュニケーションをすることができる。これは「神との対話」と呼ばれる。
そして、黒風テルは、生物学の力ではなく、現代物理学の力で、九魔星蓮子に対抗する。
九魔星蓮子が偉大な生物学上の発見をしたように、黒風テルもまた偉大な発見をする。その発見とは、「物質にE=mc2のエネルギーがあるのと同様に、空間にも莫大なエネルギーがある」「空間におけるエネルギーには、『光』の対となる『闇光』がある」「時間の流れは光の速度に近づくと遅くなるだけではなく、『マイナス速度』と呼ばれる極めて遅い速度で『闇光』の速度に近づけば時間の流れは速くなる」という発見である。
この「マイナス速度」という発見が、黒風テルによる発見である。それは、単に向かっている方向とは逆の方向に進むということではなく、また、停止するところまで限りなく減速するということでもない。プラスの速度と別次元のマイナス速度があるということは、「空間が三次元で、時間が一次元であるという考え方は間違っており、時間にも多次元性が存在する」ということを意味している。
今の物理学では、前方に進むのをプラスだとするなら、後方に進むのをマイナスだとしているが、それは間違っている。すなわち、「前方に進むプラスの速度」があれば、「前方に進むマイナスの速度」があり、「後方に進むプラスの速度」があれば、「後方に進むマイナスの速度」もある。
そして、前方のプラスの速度が光の速度に近いぐらい速くなると、時間の流れ方は遅くなる。だが、なんと、前方のマイナスの速度が「闇光」の速度に近いぐらい遅くなると、時間の流れ方は速くなるのだ。
それによって、わたしたちはほかの誰も未来に到達していない状態で、ほかよりも早く未来を体験できる。そしてこれが黒風ミキが未来予知ができる理由である。すなわち、黒風兄妹の時間の進み方はほかの誰よりも速い。それは彼らが「闇光」の速度に近いマイナスの速度で前方に進んでいるからである。
先ほどから言っている「闇光」とは一体なんなのか。それは物質に反物質があるとか、重力に反重力があるとか、そういうことではない。量子力学では、光は波であり粒子であるとし、光は波動であり、空間そのものを伝播するとした。だから、「空間を漂う波」という考え方が量子力学の研究者の間で一般的である。すなわち、物質を含めて、宇宙には空間と波動しかない。
だが、これも間違っている。なぜなら、「空間そのものも波である」と言えるからだ。すなわち、空間という媒体を波が伝播するという考え方は正しくない。波が伝播するとされた、空間そのものはなんなのか。それはエネルギーであり、エネルギーとは波動である。そう、空間そのものも波動なのである。
すなわち、波動と空間があるのではなく、波動も空間もどちらも波動なのである。そして、この「波動であり空間であるような空間」、それこそが「闇光」である。空間と波動は同じものであり、空間すら波動であり、エネルギーはそれ自体が波動である。そして、光と空間があった時に、前者を「光」と呼び、後者を「闇光」と呼ぶのである。これこそが、黒風テルの発見である「空間=波動=闇光」である。