小説「ディア・アスカードと魔法世界の未来」の続き。
エル・トマソンに、ディア・アスカードが正攻法で勝つことは難しい。だが、それでも、ディア・アスカードは正攻法でこの世界を「本来の魔法のあるべき世界」にしようとする。
ディア・アスカードがエル・トマソンに勝つためには、信奉者を増やす必要がある。
ディア・アスカードの信奉者のことを、「ディア・アスカーディスト」と呼ぶ。ディア・アスカードはイギリス人の少女であり、英語でのスペルはDia Ascardというが、このDiaを「親愛なる」という意味のDearに変える。単に「アスカーディスト」というのではなく、語尾変化がなんであれアスカードという言葉には必ずディアを付けるのが、ディア・アスカーディストの慣習である。
ディア・アスカードは、自らの信奉者を増やすために、まずは「草の根活動」を行う。
まず、未来の世界の情報通信手段である、魔法バースにおいて、自らのサイトを作った。このサイト名は「次世代の魔法をみんなで作るプロジェクト」であり、プロジェクトの正式名称は「プロジェクト・ディア・アスカーディスト」(PDA)である。
そして、魔法バースにおけるもっとも流行しているSNSをひとつ選び、そこで自らの活動の最新情報を毎日投稿した。
ディア・アスカードのSNSアカウントでは、ひとりひとりのフォロワーに向き合い、たったひとりのフォロワーであったとしても大切にする。たったひとりだからどうでもいいとは考えない。関係者のアカウントでなかったとしても、問題がなければファンのアカウントをフォローし、素晴らしいことを言っているツイートがあれば引用ツイートをして、自らの考え方を添えてそのツイートを拡散する。そして、批判や侮辱があっても、決してそれを批判し返したり侮辱し返したりしない。
ディア・アスカードは、動画サービスも活用する。単に動画の再生回数を伸ばすことが目的ではなく、少なくとも月に一度はライブ配信を行って、リアルタイムに視聴者がチャットに参加できるような定期配信の中で、素晴らしいことを言ったチャットのコメントに対して動画の中で自らのそれに対する考え方を述べる。たった数行のコメントに対して、何十分も語りかけることもある。
そして、ディア・アスカードは、常に世界を変えることを言うだけではなく、哲学的な賢いことなども投稿していく。それは一種の倫理学の理想論であり、ファンからは「スピノザのエチカの未来版」であると言われる。その結果、ディア・アスカードは魔法バース上においても有数のインフルエンサーになった。
そして、信奉者が増えていくと、そのような信奉者の側から活動を拡大していくようになった。イギリスの各地に有志によるファンクラブである「ファンクラブ・ディア・アスカード」(FCDA)を作り、そこで信奉者たちが魔法世界の未来について考える「討論会」を行うようになった。
そして、信奉者が増えていくと、さらに活動を昇華させるため、彼らはデモ活動を行うようになる。デモは一種のプロモーション活動を兼ねており、一般的な魔法バースを使わない普通の人であっても、ディア・アスカードの考え方を知ってもらうために各地でデモを行う。だから、略奪や破壊のような犯罪行為は絶対に行わない。それはイメージを上げるのではなく下げる効果があるためである。彼らはたった5~10人であってもデモを行い(さすがにそれ以下の人数では参加者が可哀想なので最低5人は集まる必要がある)、ただ単に「魔法の未来のために、ディア・アスカードを支援してください」(英語では"for magic future, help Dia Ascard!")と人々に呼びかける。
イギリス政府は、このようなディア・アスカード信奉者によるデモについて、最初は弾圧を行っていた。だが、ディア・アスカード信奉者たちは、弾圧されてもそれだけでくじけることなく、デモや弾圧されている様子すらSNSにネタとして投稿し、さらに支持者を呼びかける。彼らは弾圧されても勢力が減ることがなく、逆に弾圧されるたびに勢力を増しているという調査結果もある。
そして、そのようなディア・アスカード信奉者を弾圧するはずの政権幹部にすら、ディア・アスカードの考え方が普及してしまう。政権を担う幹部なども、反ディア・アスカードではなく親ディア・アスカードの政治家や議員が増えていき、果てはイギリスの首相が国会答弁で「アメリカや諸外国の魔法政策に対抗するために面白い発想だと考えている」と述べてしまうことすらあったのである。
そして、イギリス中が新しいディア・アスカードの考え方に熱狂する中、ディア・アスカードは事実上の社会魔法主義国家である「ユナイテッド・ディア・アスカーディスト」(UDA)の樹立を宣言する。これにより、政府と信奉者は一体となり、新しい「社会魔法主義政策」を行うひとつの仲間であることが公的に約束されたのである。
ディア・アスカードは、UDAにおける新しい社会魔法主義の国家モデルとして、自分の手でよいものを考えると言ってきたが、実際は、結局かつてのオープンソースがやっていた、「無料で使うことができ、給与は払わず、ボランティアが魔法を作る」というモデルを採用する。
このよい点は、人々が使うことのできる魔法の幅が飛躍的に広がるということである。
エル・トマソンによる資本魔法主義のモデルにおいては、人々は新しい魔法を使うために新しく学習料を支払う必要がある。だが、人々は、そのために必要な費用をいくらでも持っているほど豊かではない。だから、人々は魔法にかかる費用を節約する。人々は、できるだけ生活に必要な魔法だけを購入し、高額な魔法については、それがたとえば自動車の運転のような生活に直結する魔法でない限り誰も買わない。
このため、高額で人々が必要としていない魔法については、誰も買わないため、存在していても存在していないのと同じであり、そのせいで面白い魔法を作ったとしても期待される利益を得ることができず、結局のところ利益を度外視して提供せざるを得ない。
だが、そのような魔法の製造について、最初から給与を与えることを考えず、無料で使えるようにすれば、どんな魔法であっても自由自在に使うことができ、使える魔法の幅が広がる。そのため、エル・トマソンによる方式では、数十種類ぐらいの魔法を使うことが一般的だったのに対して、ディア・アスカードの方式では、数百あるいは数千という魔法を自由自在に使うことが一般的である。これは無料であるということ故に、水や空気のように魔法が使えるということであり、UDAの魔法経済は無料であるが故にもっとも豊かで国民は恵まれている。実質的にUDAにおける魔法のコストパフォーマンスは、アメリカに比べて何千倍であると言われている。
だが、魔法を作るために、エル・トマソンは魔法製造カンパニーの社員に給料を払っているが、UDAによるモデルではその給与が払われない。だが、実際のところ、魔法を作るのは簡単である。すなわち、魔法製造カンパニーなどに頼らなくても、詳しい人間であれば自分で魔法を作ることはそんなに難しいことではなく、逆にそのように「人々が自由に魔法を作る」という権限を誰かひとりが独占して奪っている。だから、UDAにおいて、人々は自由自在に、まるで「遊び」のように魔法を作って無料で提供する。遊びには給与は要らない。それは遊び自体が楽しいからである。
だが、そのようなUDAの方式に対して、エル・トマソンは自らの方法の優位性を主張する。エル・トマソンによれば、「魔法製造カンパニーは優秀なインストラクターを何十万人と雇用しており、魔法学習者はわたしたちの会社に金を払うことで、極めて優秀な教育をインストラクターから受けることができる」と常に述べている。
だが、魔法の習得にインストラクターが必要なのは、本当に初心者のような入門者だけであり、魔法に詳しい人はインストラクターがいなくても自分の力でいくらでも魔法を習得できる。ほとんどの国民はそのような中上級者であり、単に免許を受けるために払う必要があるから学習料を払っているにすぎない。
そして、そうした人々の中でもさらにエキスパートは、魔法の裏側にある実際の原理を知りたいと望む。エル・トマソンの方式では、そのような原理は秘密にされていて知ることができないが、UDAの方式であれば、そのような原理を知ることができ、自ら作ったり作り変えたりすることもできるのである。
なぜ、ディア・アスカードがこれほどに成功したのか、それはイギリス人の国民性に問題がある。
簡単に言えば、イギリス人は新しいものが大好きだ。
それこそ、かつて、ビートルズがイギリス中で流行した時も、こんな感じだった。
違うのは、ディア・アスカードは大胆で、みんながそれくらいで満足しているにもかかわらず、それ以上の答えを出してくる。すなわち、単に流行して熱狂するだけではディア・アスカードは満足しない。ユナイテッド・ディア・アスカーディストという国家を建国しなければ、ディア・アスカードは満足しない。
それはなぜか。それはファンが望むからである。すなわち、ディア・アスカードは第一にファンが望むことを実現する。そして、ファンはみんな、ディア・アスカードによって樹立されるUDAを見たくて見たくて仕方ない。だからやる。そのように、ディア・アスカードという少女の頭の中は非常にシンプルである。
だが、それを金儲けとは決して結びつけるべきでない。アメリカのトランプ大統領のようなポピュリストはそこが分かっていない。みんなの望んでいることをやるのは、新しもの好きなイギリス人であれば正しいが、金が大好きなアメリカ人であれば間違っている。そこが理解できない人間には、彼女と同じことは絶対にできない。
佐々木朗希が右肩痛でIL(負傷者リスト)入りした。
佐々木朗希、右肩痛で負傷者リスト入りと球団発表…初の中5日で球速低下、調整再考でマイナー行きも(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース
佐々木朗希が右腕の痛み訴える ド軍指揮官が明かす 球団が「右肩の痛み」でIL入り発表(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース
僕はあえて言う。ロッテに戻ったほうがいい。
佐々木朗希は、完全試合をした時のパフォーマンスに比べると、球速も落ちているし、メジャーでは制球力もなくなっている。強い言葉を言えば、「退化」してしまっている。
本人も、自分が衰えているという自覚があったのだろう。衰える前にメジャーに行きたいと、焦ってメジャー入りを決断をしてしまった。衰えているという自覚は正解だったが、メジャー行きは間違いだった。
マイナーで体を作って這い上がれという人もいるが、マイナーで過酷な日程や移動をこなしながら、体とコンディションを作るという芸当が、今の佐々木朗希にできるかといえばできない。メジャーに上がることは叶わず、一生3A暮らしになってしまうと思う。
日本に戻って、ロッテに再入団したほうがいい。ロッテならまだ通用する。ロッテのみんなの意見をきちんと聞いて、体作りについて教えてもらって、まずは芯を強くすること。メジャーでは各自の練習は自由で、誰も教えてくれないのが普通だが、日本ではコーチが誠心誠意支えてくれるのが普通だ。そして、今度は自分のことだけを考えるのではなく、周りを見る余裕をもって、個人プレーではなくチームプレーを自覚すること。その上で、体の芯を強くして、全盛期の球速や制球力が戻るかどうかを試せばいい。
メジャーに行くのは、そのようにみんなで頑張った上で、球速や制球力が以前に戻ってからで遅くはない。また、失敗をしそうになって逃げるのではなく、逆に失敗を何度も繰り返すことで、どこに本当の問題があるのかを突き止めること。今の佐々木朗希の課題はそれだけだ。だから、ロッテファンがまだ内心穏やかであるうちにロッテに戻ったほうがいい。
上のようなことを書いていて、申し訳ない。佐々木朗希についての新しいニュースで、病名は「右肩インピンジメント症候群」だそうです。
ロバーツ監督 佐々木朗希は「ここ数週間、違和感があったようだ」ロッテ時代の古傷を示唆 今後は無期限ノースロー「100%の力を発揮できるまで」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース
ドジャースに激震 佐々木朗希が負傷者リスト入り「右肩インピンジメント症候群」と正式発表 長期離脱必至(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース
おおっ!これは凄い。病名が分かった。ドジャースの医者はいい仕事をする。
これで、特定の怪我や病気であることが分かったし、治療できる。治療すれば、佐々木朗希もかつての球速や制球力を取り戻せるのではないか。よかった。それなら治療に全力で取り組んでほしい。
ヤフコメを見ていると、この病気は肩のインナーマッスルの筋トレで治せるとのこと(ただし別の人は手術によって治ったという人もいる)。佐々木朗希も、今まで本当に分かりたかったことが分かって、内心ホッとしているのではないかな。どんな選択をするのであっても、自分の納得できる人生を生きてほしいと思う。