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2025-05-13

ディア・アスカードと魔法世界の未来

これより、詩人アッシー四世による、新しい物語が始まる。

作品の名前は、「ディア・アスカードと魔法世界の未来」。

主人公の名は、ディア・アスカード。空間魔法の生まれた未来の世界において、本来の魔法の可能性を取り戻すため、自ら作り上げた「第二世代魔法」を使いこなす、社会魔法主義者である。

物語の舞台は、120年後の世界。120年後において、人々は、物質だけでなく空間にも原子構造があり、その空間原子を操作することで空間の物理法則を変えることができ、魔法のようなことがなんでもできるとされた理論である「空間原子論」を発見したことにより、「空間魔法」と呼ばれる魔法を使うことができるようになった。

そして、資本主義と社会主義の戦っていたこの世界は、120年後においては資本主義社会が大きく勝利している。そして、空間魔法を資本主義社会において使うために、空間魔法の中で、資本主義社会に適した部分だけを社会的に許し、資本主義社会に不適合な魔法の特徴は法律によって制限するようになった。これを主人公ディア・アスカードは「資本魔法主義」と呼ぶ。

主人公、ディア・アスカードは、この資本魔法主義が嫌いである。資本魔法主義においては、魔法の持つ本来の価値ある可能性が制限されてしまっている。たとえば、ワープをするためには資格と許可が必要であり、非合法なワープを行った人間は資格を取り消されて魔法が使えなくなる。空間コピーも禁止されている。ほかに、魔法を使うために免許が必要であり、資本主義の会社が定めた「魔法秘密制度」により、さまざまな資本主義的な技術や知識が秘密にされている。だから、一般の子供たちには、たとえば明かりを灯すといった簡単な魔法であっても自由に使うことができない。

ディア・アスカードは、より自由な社会を望んでいる。資本主義の金儲けに適合しなかったとしても、より自由に魔法を使ったり、あるいはその魔法の裏側にある原理的な詳細を秘密にせず、万人に公開するような魔法社会を望んでいる。この彼女独自の思想をディア・アスカードは「社会魔法主義」と呼ぶ。

ディア・アスカードには、ほかの人間にはできないことがひとつできる。それは「太陽と話す」という特殊能力だ。この世界の多くの人々は、太陽を核融合をする水素の塊であると思っている。だが、ディア・アスカードはその太陽の裏側にいる「太陽神」と言葉で対話できる。

ディア・アスカードは知っている。太陽は水素でできているだけの単なる物質ではない。太陽には人間と同じような知性が備わっていて、人間と同じように何かしらを考えて生きている。そして、人間にはできない、「世界レベルで星そのものを作り変える偉大な力」を持っている。

ディア・アスカードは、そのような太陽を用いた、新しい魔法である「第二世代魔法」を使うことができる。旧来の第一世代魔法は、空間の物理法則を作り変えるとは言っても、その効果は限定的で、人間と空間が単に小さな世界で繋がるだけだった。第二世代魔法においては、それが宇宙の星々の力と結びつく。すなわち、第二世代魔法は「太陽の知性を用いた空間魔法」であり、太陽と魔法使いが一体となることで、まるで召喚獣イフリートを召喚するかのように、太陽の力を使ったはるかに強力な魔法を使うことができる。

ディア・アスカードは、しかしながら、普通の16歳の女の子である。年齢的には高校生だが、いろいろと事情があって高校には長い間通っていない。好きなものは音楽。さまざまな音楽をいくらでも聴く。学校に通わないながらも魔法の勉強を続けており、普通の人間が知らないような魔法の常識に極めて詳しい。

そして、ディア・アスカードは、単なる社会魔法主義の革命家ではない。この世界の危機、すなわち「空間元素の崩壊」から世界を救う。空間元素の崩壊とは、空間魔法を使うために必要な空間そのものに備わっている、空間原子の原料となる「空間元素」が、なんらかの理由によって枯渇し、地球において空間魔法そのものが成り立たなくなってしまう危機である。その危機を救うために、ディア・アスカードはこの世界を導く。社会魔法主義者ディア・アスカードの「導き」によって、空間元素の崩壊から地球は救われ、魔法の世界を維持し続けることができるようになる。

資本家エル・トマソン

資本魔法主義の世界を牛耳っているのは、大富豪で資本家のエル・トマソンである。

エル・トマソンは、空間魔法を商業的商品にするための、「魔法製造カンパニー」と呼ばれる会社の社長であり、彼らの商品を購入するためには、免許とライセンスが必要になる。そして、その免許とライセンスを受かるための「魔法合格試験」の学習料によって、莫大な富を得ている。

空間魔法を使うために、本来お金を払う必要などない。空間魔法は誰でも簡単に費用なしで使える。だが、エル・トマソンはそれを商業的な商品にすることに成功した。空間魔法を使うために免許とライセンスが必須となる社会制度を構築したエル・トマソンは、その免許を受かるための「学習料」と呼ばれる必須の費用で儲けている。

エル・トマソンは、単に儲けているだけではなく、ルールも作っている。エル・トマソンは、空間魔法についてさまざまな制限や制約を作った。ワープをするにも、非合法なワープは禁止されており、非合法なワープをすると罰金を取られるし、それによってなんらかの損害を他者に与えると免許と資格が剥奪される。ワープ以外にも、さまざまな空間魔法を使うための制限があり、資本主義社会のルールで認可された「認可魔法」しか使えない。認可されていない魔法には、空間そのものをコピーする空間コピーのような魔法があるが、これを使うことは実質的にできない。

空間魔法の第一人者レオナルド・グローリー

このような、エル・トマソンを中心とする資本魔法主義に対して、社会魔法主義者ディア・アスカードは、真っ向から対決姿勢を見せつける。

ディア・アスカードが社会魔法主義者になったきっかけは、あるひとつの本である。その本は、まだエル・トマソンが資本魔法主義の社会を築き上げるよりも前の世界を知っている、空間魔法の第一人者レオナルド・グローリーの書いた本である。

レオナルド・グローリーの言う空間魔法の理想の世界は、空間魔法という発明によって、人間の世界がまったく違う、素晴らしい世界になるための思想が書かれていて、そこにはエル・トマソンが築き上げたような「金儲け優先の資本魔法主義」とは似ても似つかない、まるで社会主義のユートピアの理想のようなことが書かれていた。

レオナルド・グローリーの言うそれは、まさに「空間魔法という発明の目指した本来の理想」であり、「わたしたちのあるべき正しい未来」だった。そして、その未来は、残念ながらエル・トマソンの資本魔法主義によって、間違ったものになってしまた。少なくとも、ディア・アスカードはそう信じた。

ディア・アスカードはこの本に影響を受けて、資本魔法主義ではない、新しい「社会魔法主義」と呼ばれる理想を作り上げる。すなわち、社会魔法主義という考え方そのものを作り出したのが、主人公ディア・アスカードであり、それは空間魔法の第一人者レオナルド・グローリーの影響があったのである。

魔法主権在民主義

このようなディア・アスカードも、すべての空間魔法を自由にしろと言いたいわけではない。

本当に、魔法のすべてを自由に許してしまえば、どんな魔法でも使えるようになってしまう。それでは、市民の安全や安心は脅かされる。

ディア・アスカードの根底となる思想は、「ひとりの資本家が空間魔法という発明のすべてを牛耳るのはおかしい」ということだ。

エル・トマソンの魔法製造カンパニーは、その名の通り、魔法の製造を行うカンパニーだ。製造を行う、ということは何を意味するかというと、魔法の原理そのものの発明を行い、使用・習得するためのライセンスを売買可能なパッケージ商品とした上で、その発明した魔法の原理を秘密にするということである。

すなわち、エル・トマソンは魔法の製造を行う権限を自分ひとりだけにし、その魔法の原理原則を自分ひとり以外の誰にも公開せず、秘密にし、非公開にし、原理の発見と製造の権限を独占している。

ディア・アスカードは、言う。「みんなの魔法の裏にある、大切なものをすべて、ひとりが独占しているのに等しい」と。すなわち、ディア・アスカードは、「空間魔法はみんなのものであり、魔法は誰かひとりが独占するのではなく、主権在民であるべきだ」と言う。それを、「魔法主権在民主義」と呼ぶ。

だが、魔法主権在民主義においては、資本主義のお金儲けのように魔法を作ることができない。エル・トマソンが学習料で儲けている理由は、魔法を製造するためには研究開発にかかるお金が必要だからだ。

だが、ディア・アスカードは言う。「わたしが、魔法を資本主義の金儲けではなく、もっと別の方法で作ることのできる世界を作ってみせる」と。すなわち、「わたしがそのような、魔法を社会のみんなで作ることのできるような魔法経済の社会モデルを考え出してみせる」と、ディア・アスカードは叫ぶのである。

空間魔法によって太陽系の惑星に行ける

未来の世界では、空間魔法を使うことによって、さまざまな革新的なことが成し遂げられている。

たとえば、空間魔法を使ったワープにより、火星のような、太陽系の別の惑星に行けるようになった。

火星は岩石の惑星だと、一般的には思われている。だが、空間原子による、特別偉大な魔法技術がひとつある。それは「地水火風変換装置」である。

地水火風変換装置を使うことで、土や光といったエネルギーを、水や空気に変換することができる。これは空間原子論の応用技術である、「空間元素化学反応」によって行うことができる。

その技術によって、火星は岩石の惑星から一変し、水や空気のある、人間にとって過ごしやすい世界に変わっている。

そのような火星、あるいはほかの地球の近くにある太陽系の惑星に、未来の世界ではワープして移動できる。このためには、「ワープ方式の宇宙船」に乗る必要がある。資格と免許のない人間には、ワープ宇宙船の操縦や運転を行うことはできない。

残念ながら、プロキオンやシリウスといった宇宙のほかの星には、まだ行く方法が確立していない。ネックとなるのは、「光の速度より速く移動することはできない」というアインシュタインの法則である。残念ながら、光の速度よりも早く移動できないため、100光年以上離れた星に行くためには100年以上の時間がかかる。

だが、そのようなアインシュタインの法則も、正しいものではないということが分かりつつある。すなわち、「空間や時間はねじ曲がる」と相対性理論では述べられているが、空間原子論により、空間そのものを人為的にねじ曲げることで、100光年以上距離があったとしても、それを歪ませて、極度に互いの距離を近づけた「ワープホール」を作ることが可能であるということが分かりつつある。

この技術は空間そのものを破壊するため、危険だが、一部の研究実験では、プロキオンの様子を観測することに成功した、複数回ワープ方式の宇宙船の観測結果などが出ており、プロキオンには地球の生物とはまた違う、多様な生態系があることが分かりつつある。すなわち、地球のような生態系のある星は、地球だけではなく、プロキオンにも同様の生態系があるということが発見されているのである。

すべての技術はトマソンが牛耳っている

このように書くと、未来の技術は進歩していて、さも素晴らしい世界だと思われるだろう。

だが、そうとも言えない。なぜなら、すべての技術をエル・トマソンが牛耳っているからだ。

まず、地水火風変換装置を作ることができるのは、エル・トマソンの率いる「魔法製造カンパニー」だけである。なぜなら、エル・トマソンだけがそうした魔法技術の「原理」を握っていて、その魔法技術はとても高度で、そして魔法秘密制度によって国家レベルで守られているため、そのような「魔法における必須の道具や装置」はエル・トマソンにしか作ることができない。

それから、ワープ方式の宇宙船も、あるいはワープホールの製造方法も、すべて、エル・トマソンが握っている。大学や教育機関にすら非公開にしているので、一般の人間たちはどのように頑張っても、その技術を知ることも学ぶこともできない。

ほとんどすべての魔法技術は、エル・トマソンが握っている。

だが、そのような中で、唯一、エル・トマソンが分かっていない新世代の魔法技術がある。それが太陽の知性を使った「第二世代魔法」と呼ばれる技術だ。この第二世代魔法を作り出したのが、われらが主人公、ディア・アスカードだ。

ディア・アスカードは、エル・トマソンとはまったく別の方法で、第二世代魔法を作り出した。そのためには、太陽神との対話が必要だった。太陽神との対話は、ディア・アスカードが少女時代からできるようになった特殊能力で、太陽は単なる水素ではなく人間と同じ人格を持った生物であるという仮説に基づく。そして、太陽神の導きによって、第二世代魔法を作り出したのである。

ディア・アスカードは、この第二世代魔法を、エル・トマソンのものには絶対にしたくない。だから、ディア・アスカードはこの第二世代魔法を、オープンな方法で全世界に無料で公開することを選んだ。だが、条件がある。その条件とは、「決して第二世代魔法を誰かひとりが独占してはならない」という条件である。すなわち、誰かひとりが独占しない限りにおいて、第二世代魔法は、お金を払わずに誰でも使うことができる。ディア・アスカードはこの第二世代魔法を魔法の世界の情報通信手段である「魔法バース」において全世界に公開したのである。

第二世代魔法は資本魔法主義者には使えない

そのような第二世代魔法は、その条件を成り立たせるためのさまざまな条文がある。特に重要なのは、「非公開にするような製品を作るな」という条文である。一般的に見れば、「金儲けをするな」という条文にしたほうが適切だと思われるかもしれない。だが、金儲けをすることと、情報を非公開にすることは違う。そして、この条文においては、非公開にするような製品が作れないため、エル・トマソンのやっている方法では、どう頑張ってもこの魔法は使えない。すなわち、単に金儲けを否定するだけではなく、「金儲けをしている勢力には絶対に使えないようにする」という意図が込められている。

そう、エル・トマソンの商業的なやり方では、ディア・アスカードの作り出した「第二世代魔法」を使うことは絶対にできない。そして、エル・トマソン以外のやり方を行う魔法使いたち、すなわち「社会魔法主義者」だけが、この魔法を使うことができる。第二世代魔法は魔法バースによって全世界に公開されているため、世界中の老人から子供、男から女まで、老若男女誰でも使える。それこそが、ディア・アスカードの目指す「資本魔法主義でない、新しい魔法経済社会モデル」となる。

ディア・アスカードはそれだけを注意深く、そして狡猾に考え抜いた。だから、社会魔法主義者は未来の世界において爆発的に増えていくのである。

よって、エル・トマソンとディア・アスカードの争いは、「第一世代魔法と第二世代魔法の戦い」となる。すなわち、エル・トマソンによる第一世代魔法をディア・アスカードが使うためにはお金がかかるし、もし金を払ったとしても非合法な認可されていない魔法は使うことができない。そして、ディア・アスカードによる第二世代魔法を使うためには、エル・トマソンのような商業的な資本魔法主義者ではない必要がある。だから、必然的に、第一世代魔法を使う多数派の資本魔法主義者たちを、第二世代魔法を使うディア・アスカードと社会魔法主義者たちが打ち倒す、という構図になるのである。

エル・トマソンはまともな人間

このように書くと、エル・トマソンは愚劣な資本主義者のビジネスマンだと思われるだろう。

だが、そうでもない。なぜなら、エル・トマソンはとてもまともな人間で、知性あふれる頭の切れる人間だからだ。

まず、エル・トマソンは悪いことを何もしていない。魔法というのは学習の段階が大事で、学習を少しでも間違えると、間違った魔法の覚え方をしてしまい、それ以降魔法を習得するのが難しくなる。だから、小学校ぐらいの子供の頃から、正しい教え方をしなければならない。だから、生涯かけて魔法を使えるようになるために、学習料を払って魔法を覚えさせる。そのために必要な最低限のお金しか取っていない。

そして、そのような儲けたお金を、エル・トマソンの傘下にあるさまざまな人類の未来のための事業に使っている。宇宙船を作ることで、火星で人間たちが生きることができるようになり、とても大きな地球への恩恵がある。そのような地球への貢献を考えれば、ひとりが莫大なお金をたくさん持っていて、空間魔法の技術的なバックグラウンドをすべて独占し秘密にしていることは、問題にはならない。

それから、エル・トマソンは自分の会社のイメージをとても大切にしている。有名なプロ野球選手などの著名人を起用して、テレビや街中に多くの事業のプロモーションをしているが、その事業はとても多彩で、業界のことを知らない普通の一般人であっても「エル・トマソンはたくさんの人類のためになることを頑張っている」ということを誰でも知っている。

そして、エル・トマソンは、さまざまなテレビなどの番組にもよく登場する。名前からしてハイデガーのような人間を思い浮かべるかもしれないが、実際はまったく異なる。頭のいい人間で、単に常識人や知識人として振る舞うのではなく、いつでも自分自身の独自の考え方に基づいて発言をする。ほかの誰も気付かない点によく気付き、ほかの誰も考えなかったことを考え付く。それも、エル・トマソンが日頃からいつも誰も勉強しようとしない分野を精力的に勉強しているからである。

だが、そのような有名人であるからこそ、アンチ・トマソンという存在も多く存在する。魔法業界には、空間魔法のすべてを独占しているエル・トマソンのことを、かつてのIT技術を独占していたIBMになぞらえる人も多い。エル・トマソンの有名なニックネームは「22世紀の新しいビッグブルー」である。

ディア・アスカードは本来の魔法の素晴らしさを取り戻したい

また、このように書くと、ディア・アスカードは戦う相手を間違えただけの、身の程を知らない勘違いした少女だと思われるだろう。

だが、ディア・アスカードが思うことはひとつしかない。それは「本来の魔法の素晴らしさを取り戻したい」ということだ。

本来の空間魔法は、誰にとっても自由に開かれていて、それを使うために「使用料」や「学習料」を要求しない、自由なものだったはずだ。

本来の空間魔法は、誰かひとりが原理や方法を独占し、ルールによって資本主義と適合しない魔法を禁止し、わたしたちに「魔法はこのように使わなければ正しくありません」と、魔法のほうから要求し命令してくるようなものではなかったはずだ。

すなわち、レオナルド・グローリーの唱える「本来あるべき空間魔法」が、エル・トマソンの金儲け主義によって、完全なる「金儲けのための道具」にすり替えられてしまった。本来の空間魔法の素晴らしさは、0.1%も残っていない。あるのは、「子供の頃からみんなを洗脳し、素晴らしい人類の宝をたったひとりが独占し、それ以外のすべての人間は本来の素晴らしい価値あるものをなんにも知ることができない」という、最悪の世界である。

ディア・アスカードは考える。この世界において、真に正しい魔法の未来とは何か。エル・トマソンのやり方ではなく、自由かつ金儲けでない、公開された魔法の世界とは、どのようにすれば作れるものなのか。ディア・アスカードだけが、そのために、全員が「右を向け」と言われた世界の中で、ただひとり左を向くことを選んだのである。