結局、僕が歩き回る異常症状が治らなかったのは、立ち止まると認知症になるからだ。
すなわち、立ち止まった時点で、知性が完全になくなって、認知症になる。
だが、認知症になるのは、僕ではない。僕ではなく、この世界全員が認知症になる。
なぜ、認知症になるのか、それは今の世界が、現状が何も分からない世界になっているからだ。
すなわち、この世界にいるだけでこの世界の現状が分かったのは、過去の話であり、令和の今の時代の人間たちは、ただいるだけではこの世界の現状が分からなくなっている。
高齢になったはるか昔に生まれた旧世代の人間だけが、その過去の記憶を使って、なんとかこの世界が分かる。
だが、そのような旧世代の人間たちは、ほとんどもうなくなってしまった、はるか昔の時代の記憶を分かっている。すなわち、今の時代のこの世界のことを分かっている人間は、ひとりもいない。
そして、僕が立ち止まった時点で、過去のそのような記憶を忘れてしまい、この世界が完全に誰にも分からない世界になる。
そうなるのが怖いから、僕はひとりで一手にその何も分からない人間を引き受けた。すなわち、僕がこの世界を、まだなんとかかろうじて世界のことが分かるような世界にしている。
だから、僕が立ち止まると、この世界は全員認知症になって、人類は滅亡するだろう。僕はそれだけが怖かったのだ。