Assy著
ジョナサンは、料理人の38歳。フレンチを専門にしているが、アバウトな料理を作ることが多い。得意料理は、オーソドックスな子牛のソテー。
ポールは、数学者の43歳。量子物理を専門としているが、特に、時間と空間については右に出るものが居ない。
2人は、昔からの幼馴染で、親友だ。あるとき、料理をレストランで食べて、街を歩いていた。
そこで、何かの天使が現れる。2人とも、いきなり意識が消えて、変な機械の密室の中で、水晶玉がある部屋に送られた。
「なんだ?こりゃ。」ジョナサンは起きていたが、ポールは気絶したままだ。
「おい、ポール、起きろ!君が居ないと、僕は臆病だから、こんな状態には対応できない」
すると、ポールが起きると同時に、天使ガブリエルが現れた。
ガブリエルが言った。
「私は、大天使ガブリエルだ。
君たちは、地球の中で、一番優れた頭を持つ2人だ。
地球の代表と思えば良い。
この機械の部屋では、好きなことを水晶玉を持って、願うだけで
色んな夢が見られる。
君たちは、夢の中で色んな体験をする。
それが、私たち、天界の色んな人間のためになる。
話はそれだけだ。
どんな夢を見たい?」
ポールが言った。
「私は、時間旅行をしたい。」
ジョナサンが言った。
「私も、時間旅行だ。ついでに、世界旅行もしたい。」
ガブリエルが言った。
「それならば、水晶玉を持って、そう願いなさい。
時代は、勝手にころころと変わる。安全だが、その時代に干渉は出来ない。
自分たちは透明人間のように、色んなところを通過できる。
過去は上書きできないから、しばらくの間、
世界の全てを見て回ると良い。」
◇◇
まず、アフリカの人類の夢になった。
最初の原始人が、火を使って、けものを倒している。
人間には毛がないから、あまり燃えない。
獣は、火をあてるだけで倒せる。
肉を食べながら、歌を歌って踊っている。
のんきなものだ。
◇◇
次に、ナポレオンが、まだ皇帝になっていないころの
フランス革命期の夢。
自由と啓蒙主義とは言うが、民族主義とただの自由だ。
みな、賢い。何故か、フランス人は強かったのが良く分かる。
ナポレオンを見ると、まだ青年だ。
色んなことを覚えているが、賢くない。
ただ、自分が支配したいだけな人間と
支配者が嫌いなだけの人間が多い。
◇◇
最後に、世界の滅びの夢を見た。
何も無い、死に絶えた世界で、いくらかの人間が、家畜を飼って暮らしている。
機械は、ふたつだけ。何でも出来るロボットと、スーパーコンピュータがある。
賢い人間は居ない。馬鹿になって、賢くなっている。
永遠に全て分かる人間が多い。
◇◇
2人は、気がついた。
「驚いたなあ。この水晶玉は、何でも出来る。見たいものが見える。
それなら、宇宙旅行がしたい。」
ポールが言った。次に、ジョナサンが言った。
「私もだ。むしろ、宇宙の始まりが見たい。」
そこで、水晶玉に願うと、宇宙の始まりが見えた。
何故か、次元が今より多い。
3次元の宇宙ではなく、さらに知覚のあるものしか分からない、
5次元の宇宙になった。
5次元の宇宙を見るためには、専用のスコープをつけて見なければならない。
そのスコープをつけた宇宙は、美しいどころか、
見えるものが違う。
「なんだ。これが宇宙?驚いた。やけにカラフルで、空間が色んなものに変わる。」
ポールが言った。次に、ジョナサンが言った。
「見ろ!宇宙が宇宙を開始する。
宇宙には、そういう風に、何かが始まって何かが終わって、それが次元になる。
それぞれの『状態』に、精神がある。」
そこで、この夢は一度終わる。その後に、今の宇宙が見える。
「何だ。今の宇宙は、普通の宇宙だ。
惑星は、地球と比べると、あまりに大きなものが多い。
でも、美しい。」
ポールが言った。
そこで、この夢は終わった。
◇◇
何もしないのもつまらない。
2人は、何か冒険がしたい、ということになった。
ガブリエルが現れ、水晶玉にそういう機能がある、
ということを教わった。
ジョナサンが言った。
「この水晶玉には、誰か人間になれる機能がある。
ピョートル大帝をそのまま実行して、サンクトペテルブルグを作る、
ということも出来る。
ピョートル大帝を全部は体験できない。
ダイジェストを体験する。」
そうすると、なりたい人間は、と聞かれた。
ポールが言った。「アインシュタインだ。」
ジョナサンが言った。「僕は、誰でも良い。アインシュタインの関係の誰かが良いんじゃないか?」
そうすると、2人は、友達を体験することになった。
「アインシュタインは、やけに普通のユダヤ人だった。
色んなことをしているが、悪いことはしていない。
きちんと数学の論文を読んでいたときに、色んなものをひらめく人間だ。」
ポールが言った。
ジョナサンは、友達の物理学者になった。
「アインシュタインは、人の良い青年のごろが、一番賢かった。
僕の方は、何も出来ない、ただのアルバイトの科学者になってしまったよ。」
◇◇
ガブリエルが現れた。
「君たち2人より、もう一人、女の子が居たほうが良い。
女の子が居ると違う。色んなことを教える、女神を、天界から1人、その部屋に送ろう。
名前は、ラファエルという。女神のような美しい天使だ。
もう一人、天使が居る。ミカエルというが、夢の世界で、迷子になっている。
まずは、ラファエルと一緒に、その天使の救出にあたって欲しい。」
そういうわけで、ラファエルが現れた。
「さあ、いきましょう。
ミカエルは、海で遊んでいたときに、沖に流されて、どこかで迷っています。
見ると、浮き輪のまま流れてしまった、子供のミカエルが居ます。
救命胴衣を着て、ボートで助けます。」
ジョナサンが言った。
「天使だって、迷子になるのかい?」
ラファエルが言った。
「天使は、普通、死んだ人間がなります。
ミカエルは、子供の天使なので、何も分かっていません。
いつもおかしなことをします。助けても、すぐにまたどこかに行ってしまうのです。」
ポールが言った。
「それじゃあ、大変だ。
僕らがいつも居なければ、すぐに死んでしまう。」
ラファエルが言った。
「天使は、死ぬことはありません。」
ポールが言った。
「そうかい。それは驚いたな。
君やミカエルは、現実世界では、すでに死んでいて、
天界では、永遠の命を持っているというわけか。」
ラファエルが言った。
「その通りです。」
そのうち、ミカエルが見えた。ラファエルがこらしめるが、
言うことを聞く気配は無い。
ジョナサンが言った。「君たちは、年をとるのかい?」
ラファエルが言った。「死んだ年齢が若い人は、25歳くらいまで成長します。」
ミカエルは、すぐに泣き喚くようになった。
ただの子供だ。それで、このミカエル救出作戦は終わった。
◇◇
そのうち、ポールは部屋の機械を見ていて気がついた。
「これはすごい。とてつもなく速いCPUを使って動いている。
これは、現在のパソコンの50倍は速い。
あ、こちらの方はもっとすごい。
オブジェクト指向やLispの機能を、ハードウェアで実現して
簡単なカプセル化によって、アプリケーションを追加しやすくしている。
あ、こちらの方はさらにすごい。
機械工学と密接に結びついて、
現在の洗濯機やキッチンの機能などを
人工知能と応用力学によって
全自動で行える。
これを使えば、日本中の家庭を自動化できる。
アプリケーションを追加して実行できるようにすれば
キッチンを全自動で、レシピをインストールして
操作できるようになりそうだ。」
ジョナサンが言った。
「それは、凄いのか?」
ラファエルが言った。
「それは、良さそうです。
この夢の世界で、ひとつの家庭を実現してみましょう」
実行すると、その家庭では、
ネットワークからレシピをダウンロードして
電子レンジのように簡単に料理が作れるようになった。
適度にジョナサンがレシピを作ると、
すぐにロボットがそれを調理する。
ジョナサンは言った。
「このシステムはすばらしいが、
ロボットが駄目だ。
適度な加減を、うまく認知しない。
人間の方が上だ。」
◇◇
今度は、ミカエルと話した。
ミカエルが言った。
「料理をする時のポイントは何ですか」
ジョナサンが言った。
「素材と味つけ、焼き加減とソースだな」