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エリカの小説

Assy著

自分の書いた「永遠の青空とともに」より抜粋。

エリカの小説

2023-05-24より。

いにしえから伝わる伝説

この地上において、いにしえから伝わる伝説がひとつある。

それは、「聖書には二種類ある」ということだ。

これは、ユダヤ教の旧約聖書と、キリスト教の新約聖書が二つある、という意味ではない。

古来より、聖書には二種類の聖書があり、それぞれ、「陰の聖書」と「陽の聖書」と呼ばれている。

わたしたちが、普段聖書と呼んでいる、ユダヤ教やキリスト教の聖書は、「陰の聖書」である。

それとは別の聖書として、「陽の聖書」と呼ばれる、もうひとつの聖書が存在する。

この「陽の聖書」が、今までキリスト教徒やユダヤ人が信じてきた「陰の聖書」とともにあれば、そこに奇跡が起きる。

すなわち、陽の聖書と陰の聖書をどちらも信じるものにしか、神は現れない。

陽の聖書の内容と、陰の聖書の内容を、どちらもきちんと分かった人間は、自分自身が「神」になることができる。

その神は、宇宙の創造主であり、歴史のすべてを知る絶対的指導者であり、その神を信じれば、どのような奇跡であっても起きる。

だが、なぜ、人々は、「聖書は二つある」という事実を忘れてしまったのだろうか。

それは、ユダヤ教やキリスト教の聖典である「陰の聖書」が書かれた時代には、「陽の聖書」はまだ書かれていなかったからだ。

事実、陽の聖書は、未来において記述されるまだ存在しない聖書であるため、人々は長い間、「聖書は二つある」といういにしえの伝説を忘れてしまった。

だが、陽の聖書は、ユダヤではなく、東アジアに存在する伝承上の「日の国」において、ひとりの聖女によって記述されるということが決まっている。

その聖女は、伝承上に伝わる「古来より伝わるこの世界を救済する少女」であり、この少女が最後に「陽の聖書」を、東アジアの「日の国」において記述する。

その聖女の名を、日本人の「エリカ」と呼ぶ。

エリカ

エリカは、善良な女性である。

エリカは、言ってしまえばなんの変哲もない普通の少女だ。最近、誕生日を迎えて17歳になった。

エリカは、本当のことを言えば、みんなよりも馬鹿な少女だ。みんなが、「人生において大切なこと」を考え、「豊かな青春時代」を生きているにもかかわらず、何もそのような天才的知性や豊かな経験のないエリカは、つまらない日々を生きている。

そのようなエリカに、ひとつ、特別な出来事が起きる。

それは、エリカは、「魔の扉の伝説」を知ってしまったのである。

エリカは、ほとんど人の訪れない田舎の書店に立ち寄り、「魔の扉」という小説を見つけ、その小説を読んだ。

その中には、「アースガルズの魔の扉」という、北欧神話の伝説が記述されていた。

北欧神話において、その魔の扉はヘイムダルという門番が守っていて、その魔の扉の先に何があるのかを知っている神は、ヘイムダル以外にひとりもいない。

だが、この魔の扉、なぜか、よく似た扉が近所にあるということをエリカは知っていた。

その扉には、門番などはいない。学校に設置されたさびれた扉であり、その鍵はおそらく教師の誰かが持っているのだろう。誰もその扉の先にある世界を知らないが、その扉に興味関心がある子供たちはほとんどいなかった。

だが、この本に出てくる扉に書いてある挿絵と、まったく同じ模様と形をしているその扉のことが、エリカには興味深く映った。

エリカは、教師に「この扉の鍵をください」と言った。教師は、「開けても、ただの荷物が入っているだけの、普通の扉だよ。中の荷物が必要なの?」と言った。エリカは、「そうなんです。急に必要になって」と言った。その時点で、エリカは、「ああ、間違えたな。この扉の先には、荷物が入っているだけなのだな」と知って、失望した。だが、必要だという言葉を言ってしまった建前で、扉の鍵を借りることになってしまった。

エリカは、何も期待せず、その扉を開けようとしてみた。その時、「駄目です。やめなさい」という声が聞こえた。後ろを振り向くと、かっこいいイケメンの若い男が立っていた。エリカはその人間が、もしかしてヘイムダルかもしれないと思った。その瞬間に、その男が言った。「わたしの名はヘイムダル。その扉を開けてはいけない。こちらに来なさい。もしこの扉を開けてしまえば、あなたはこの場所に帰ってくることができなくなる」と言った。

これが、エリカとヘイムダルの出会いだった。

エリカは魔法使い

ヘイムダルは、落ち着いて、エリカに優しく話した。

「あの扉の向こう側にはね。」ヘイムダルは言った。

「普通の一般的な人間があの扉を開けると、そこには用具入れがあるだけにすぎない。

だが、あなたのように、魔力のある魔法使いの女性が、あの扉を開けると、魔の扉の向こう側へと続いてしまう。

その先に何があるかは、教えることはできない。

だが、『絶対に元の場所に帰ることができなくなってしまう』ということを忠告しておこう。」

エリカは、この中で、ひとつ、言葉が引っ掛かった。

「わたしが、魔力のある、魔法使いですって?どういうこと?」

ヘイムダルは優しく諭した。

「そう、あなたには潜在的な魔法使いとしての魔力がある。

今までの人生の中で、奇跡のようなことが起きたことはなかったかい?

一度や二度ではない、奇跡のようなことを、おそらくあなたは何度か体験しているはずだ。」

エリカは言った。

「奇跡のような体験?そう言えば…」エリカは続けた。

「そう言えば、電車の踏切に子供が立ち往生していて、助けようと思っても間に合わなかったことがあるわ。

その時、電車にぶつかりそうになって、『助かって!』と強く願ったの。

そうしたら、電車に子供がぶつかった時、まるで風船のようにポーンと跳ね飛ばされて、その時、死ぬことも怪我することもなく無事だったの。

わたしが助けたわけじゃないのに、わたしは子供を助けたということになって後で表彰されたのよ。

それから…」

エリカは続けた。

「橋から子供が間違って落ちそうになっていたところを目撃したことがあるわ。

その時も、助けようと思って、でも間に合わなかったの。

その時も、『助かって!』と強く願ったわ。

そうしたら、地面に落ちた時、風船のようにポーンと跳ね飛ばされて、死ぬこともなく怪我することもなく無事だったの。

そう、こういうことが、よく起きるの。思い出したら、本当に一度や二度じゃないわ。」

ヘイムダルは、納得したような顔をして言った。

「そう、あなたは魔法使いでありながら、自らが魔法が使えるということを知らなかった。

だけど、絶対に魔法を使わなければならない状況になって、絶体絶命になった時に、『守護』の魔法を使うことができたのだ。

あなたは確かに魔法使いだ。

一度、ヴァルハラに来てみないか?

あなたの魔力はそんなに低くない。とてつもない大きな可能性を秘めている。

ヴァルハラは神の館であり、アースガルズにある。

あなたの力があれば、アースガルズのよいトレーナーについて三日ぐらい練習すれば、基本的な魔法はなんでも使えるようになる。」

これに、エリカは驚き、また興味深そうな顔をした。

「三日でいいの?行くわ!面白そうね。わたしが魔法を使ってなんでもできるようになれば、この世界でわたしは楽しいことがたくさんできそうだわ。」

そして、ヘイムダルが唱えた。

「いつでも帰れるのだから、今すぐに行こう。瞬間移動魔法、テレポーテーション!」

エリカは聖女

エリカとヘイムダルは、次の瞬間、瞬間移動でヴァルハラに転世した。

これにエリカは驚いて、言葉を失ったが、見ていると、周りにいる多くの人々が、エリカ以上に驚いていた。

彼らがざわついているのに気づいたエリカは、何がおかしいのかが分からなかった。

だが、耳をすまして聞いていると、彼らが口々に「聖女だ」と言っているのが聞こえた。

エリカは不安になった。「何?みんななんで驚いているの?聖女って何?」と言った。

そこで、ヴァルハラの一番高いところの真ん中に座っている、主神オーディンが話した。

「皆、喜びなさい。聖女が現れた。

このヴァルハラに、簡単にはお目にかかることのできない聖女が現れたのだ。」

これに対して、ヘイムダルは、ひきつったような顔をして言った。

「申し訳ない。わたしの目論見が間違っていた。

あなたは魔法使いではない。あなたはより高い存在である、聖女だ。

あなたの頭上には、聖人の証である、天使の光の輪が見える。」

そこで、オーディンは言った。

「鏡を持ってきて、この聖女に見せてあげなさい。」

そこで、すぐさま従者と見られる女性が鏡を持ってきて、エリカに見せた。

「なんてこと。わたしの頭上に光の輪があるわ。

わたし、エリカが、聖女だったなんて。」

その「エリカ」という名前を出した途端に、人々が凍り付いたような表情をして、びっくりし、オーディン自らも驚いた上で、人々に「静粛にしなさい」というポーズをして、言った。

「名を、エリカと言ったかね?」

エリカは言った。

「そう、わたしの名はエリカよ。」

オーディンは言った。

「宇宙の終末に現れる、世界を救う聖女の名を、いにしえの伝説によれば、少女エリカと言う。」

そして、エリカは言った。

「そう、わたしはエリカよ。日本人の17歳の少女、エリカ。それがわたしよ。」

その時、オーディンはさらに言った。

「そして、そのエリカと呼ばれる救国の聖女は、東アジアの『日の国』から現れると伝えられている。」

ここで、オーディンは少し考えて言った。

「失礼だが、あなたの素性を調べさせていただく。インフォメーション!この少女のIDナンバーを調べよ。」

そうすると、そこにいる一同に天から声が聞こえた。

「この少女のIDナンバーは、S2です。」

ここで、人々は本当に恐ろしいといった表情をした。ヘイムダルは叫んだ。

「え、え、S2だって!?なんてことだ。恐ろしい!」

オーディンはさらに続ける。「インフォメーションV!この少女のIDナンバーと詳細情報を述べよ。」

そうすると、天の声が聞こえた。

「この少女のIDナンバーは、S2です。

通常、数値から始まる人間のIDナンバーですが、神や精霊にはこのような数値から始まるIDナンバーではなく、アルファベットから始まるIDが与えられます。

Sから始まるIDナンバーは、イエス・キリスト、あるいは天軍大創主である神エリカにしか設定されません。

S1がキリストであり、S2がエリカです。」

これに、みんなが「参った」という顔をしているのに、エリカだけは状況が分からなかった。

エリカは言った。「ヘイムダル、これはどういうこと?」

ヘイムダルは言った。

「本当に、申し訳ない。わたしの目がここまで節穴だとは思わなかった。

エリカさん…いや、エリカさま。あなたは、この世界を最後に救う、救国の少女であり、この世界の創造主だ。

おそらく、そういうことになる。

申し訳ないが、あなたはもう三日で元の場所に帰ることはできないだろう。帰すわけにいかなくなってしまった。」

エリカは言う。「帰れない?なんですって!?」

その時、オーディンが王座から降りてきて、エリカのもとに跪いて言った。

「エリカさま。あなたは、この宇宙に二人しかいない『神の種族』です。

あなたは神であり、『キリストと同等の存在』として言える存在です。

わたしたちのもとに現れていただいて、ありがとうございます。

あなたが、この宇宙のすべてを終末において、最後に救ってくださることになっています。」

そして、ヘイムダルがオーディンにジェスチャーで何かを確認して、エリカに言った。

「こっちに来なさい。悪いようにはしない。必ず厚待遇を約束する。」

エリカ、逃げる

エリカは、そのままヘイムダルについて行った結果、家具やもののなんにもない白い壁の部屋に導かれた。

ヘイムダルは、「ここで待っていてほしい。」とだけ行って、去っていった。

だが、そのような中で、エリカはつまらない。起きていることがなんなのかも分からなかったし、何よりやることもなく、部屋には何もなく、本当につまらないと思った。

扉を開けようとすると、扉は外側から鍵をかけられていて、出れなかった。

このことに、エリカは、「もしかして、監禁されたんじゃ?」と思ってしまった。

幸い、部屋は一階で、窓は開けられるようになっており、この窓から外に出ようと思えば出ることができるようになっていた。

エリカは、そのような結果、ヴァルハラから脱出することを決意する。

窓から外に出たエリカは、そのままどこか自分のことを地球へと帰してくれるような人を探して歩いた。

だが、行く先行く先で、自分のことを人々は凝視し、時には頭上の光の輪を指して、「あの人、聖女だよ!びっくり!」と言った言葉を投げかけてくる子供もいた。

このことから、エリカは恥ずかしくなってしまい、日本に帰る方法が分からなかったため、仕方なくヘイムダルにすぐに帰してもらおうと、ヘイムダルのいるヴァルハラに戻る決断をした。

ヴァルハラに戻ろうとしたエリカは、ヘイムダルを見つけて、「早く帰して。わたしには大切な部活があるの。試合が週末に迫っているのよ。バレーの練習をしなきゃ」と言った。

ヘイムダルは、どうしたものかという顔をしながら、「アースガルズに神が現れて、その神であるあなたがヴァルハラから逃げてしまったので、みんな大騒ぎになってしまっている。

もう一度、ヴァルハラに来てほしい。詳しい説明をする。」と言った。

エリカもヘイムダルも困った表情をしたその瞬間、背後から空を切るようなスピードで何かが現れた。

ヘイムダルはものすごく叫んだ。「まさか、ルシフェル!?」。

そして、ルシフェルはエリカを掴んで、わしずかみで抱えてこう言った。

「この世界を救う少女は、わたしたち悪魔の軍勢が連れていく!」

そして、ルシフェルは空を飛び、エリカがわめいて抵抗しても動じずに、一直線に悪魔の国へと飛び去って行ったのである。

悪魔の国のエリカ

悪魔の国に連れ去られたエリカは、本当に監禁状態になってしまった。

牢屋に鎖で繋がれたエリカは、「本当に大変なことになってしまった」と、恐怖のせいで涙が止まらなかった。

そのようなエリカに対して、悪魔の頭であるルシフェルは言った。

「あなたがアースガルズの神々の世界に訪れるのを、神々はみんな待望していた。

だが、そのような好機を、わたしたち悪魔の勢力は黙って見ているわけにはいかない。

安心しなさい。あなたを殺したり、暴行したりすることはない。

あなたはカードとして使うのに、この宇宙においてもっとも絶好の存在だ。

わたしたちは、あなたを道具として使う。殺すのはもったいない。」

ヘイムダルの騎士団

このような、「神であるエリカが現れて悪魔の国に連れ去られて監禁された」というニュースは、アースガルズ中の大ニュースになった。

そして、悪魔にエリカを奪われたヘイムダルは、そのことに大きな責任を感じていた。

そして、神々の騎士団が、エリカを救出するために、悪魔の国に赴くことになった。

その一番隊隊長に、ヘイムダルが就任し、ここに、「ヘイムダルの騎士団」が成立する。

ヘイムダルの目的は、エリカを取り戻し、このアースガルズにおける「終末を救う神」の位を与えることだ。

そう、エリカを取り戻すための、神と悪魔の聖なる戦いがここに始まったのである。

ヘイムダルの軍勢は曲者揃い

このヘイムダルの軍勢は、実際のところかなりの曲者揃いである。

まず、子供のような純粋さといたずら心を今でも持ち合わせる、しかしながら時にはこの世界を大きく変えることも行う神、宇宙の秩序を守る妖怪警備隊隊長、ロキ。

次に、博士のようにさまざまなことを知っていて、オーディンの従者として大学で教える女教授であり、同時に女としては最強の戦乙女、ヴァルキリー。

次に、百戦錬磨の戦いを勝ち抜いた、ファシストのような「最強の王者」として名をはせる、威風堂々としていながら時に傲慢な態度を取ることもある神、フレイ。

次に、色っぽい女性でありながら、双子の兄であるフレイと仲の悪い、革命家の平等な社会主義の指導者、「フレイを嫌う革命の女神」、フレイヤ。

次に、アースガルズ最強の力を誇る大男でありながら、誰よりも心の優しい、ちょっと馬鹿だけど誰よりも善良な正義の神、トール。

次に、どんなものにでもなれる変身や変化の能力がある、変わりものだけどとても優れた剣術の能力を持つ、剣の達人チュール。

最後に、宇宙のすべてを知っているにもかかわらず、それを誰にも教えることのない、寡黙だが心の奥底に情熱を宿している魔の扉の番人、ヘイムダル。

これらの、ロキ、ヴァルキリー、フレイ、フレイヤ、トール、チュール、そしてヘイムダルが一緒になって、「ヘイムダルの騎士団」を結成し、神の館ヴァルハラで待つオーディンの命を受けて、「終末の神エリカを取り戻す戦い」が、アースガルズの神々の世界と悪魔の王国の間で行われるのである。

エリカ、聖書を書く

このような中で、もっとも悲惨な待遇となったエリカだが、神であることもあって、繋がれていた鎖が外され、監獄に幽閉されるのではなく、少し待遇のよい普通の部屋にエリカは移された。

エリカの趣味は、文章で小説を書くことであり、このエリカの「紙とペンがほしい」という訴えを聞いて、エリカには紙とペンが与えられ、小説を書くための環境が整う。

狭い小さな部屋の中で、何もすることがなく出ることもできないエリカだったが、いつもの自分の趣味である「小説を書く」ということができるようになった。

そして、エリカはこの小さな部屋で、とても長くそして賢い「新しい聖書」を書く。

そして、エリカは、この新しい聖書をいずれ世界に発表し、この聖書に書かれている「この世界を救う方法」によって、アースガルズひいては全宇宙を救い、名実ともに「神」として名をはせるようになるのである。

エリカが神である理由は、このエリカの書いた「陽の聖書」にある。

そして、今までユダヤ教やキリスト教で聖書とされていたものは、「陰の聖書」と名付けられ、陽の聖書と陰の聖書をどちらも信じることで、この世界で「神の奇跡」が起きるようになり、本当に宇宙を創造した神、エリカが、その聖書を読む誰にとっても、なんらかの形で神として現れるようになるのである。

地獄の迷宮

このように、最強に見えるアースガルズの軍勢だが、実際はこの戦いは簡単ではない。

なぜなら、エリカを取り戻すためには、「地獄の迷宮」とされる要塞街道を超えていかなければならない。

この地獄の迷宮は、「未だかつて、悪魔の王国を攻略するために、伝説となっているオーディンだけを除いて誰も出口を見つけて到達することができなかった、暗黒かつ最強の魔物たちの宿る迷宮」として知られている。

この「魔物たち」だが、これはすなわち、アースガルズとは異なる神々のことを指している。

地獄の迷宮には、さまざまな魔物たちが宿っているが、その中で一番強いだろうと言えるのは、「シヴァ」と「ヴィシュヌ」だ。

シヴァとヴィシュヌは、ヒンドゥー教の神々として有名だが、地獄の迷宮を乗り越えていくためには、宇宙でも最強の力を持つと言われるシヴァと、もっとも宇宙の中で偉大かつ慈悲深いと言われるヴィシュヌを乗り越えていかなければならない。

そして、さらに強大なのが、仏教の精神世界だ。地獄の迷宮のほとんどは仏教の精神世界として成り立っており、観音菩薩、金剛力士、薬師如来など、さまざまな仏教伝来の「とてつもなく恐ろしくものすごく賢い存在」に打ち勝っていかなければならない。

いくら、北欧神話の神々であっても、ヒンドゥー教や仏教の精神存在を乗り越えていくのは難しい。同時に、インドだけではなく、たとえばイフリートやジンのような、アラブ神話の神々も待ち受けている。ほかにも、この世界のあらゆる、森羅万象の精霊たちが、地獄の迷宮にたくさん存在する。その中にはヨーロッパでも有名な、四大精霊である、サラマンダー、ウンディーネ、ノーム、そしてシルフなども含まれる。本当にもっとも厄介なのは、おそらくシルフだ。なぜなら、シルフは北欧神話の神々を「前提からひっくり返す」ことのできる力を持っている。

地獄の迷宮の先で待ち受けているのは、そうした宗教的な精霊だけではない。地獄の迷宮を乗り越えたとしても、そこには「フィクションの英雄たち」が待っている。たとえば、ジークフリート、グンテルのようなニーベルンゲンの登場人物や、アーサー、ランスロットのようなアーサー王伝説などのように、かつての古典文学で名をはせた英雄たちは、地獄の迷宮の先の「果てしなく続く暗黒の大地」でアースガルズの神々たちを待ち受ける。特に、ジークフリートやグンテルは、もともとがゲルマンの伝承上の人物であるために、アースガルズの神々のことをよく知っている。彼らに打ち勝たなければ、そもそもルシフェルたちの待つ「悪魔の王国」に到達することすらできないのである。

太陽神

しかしながら、ヘイムダルは言う。

「本当に手ごわいのは、地獄の迷宮を攻略することでも、暗黒の大地を進むことでもない。

わたしたちの力を持ってすれば、厳しい戦いになるだろうが、精霊たちはなんとか打ち倒し、乗り越えることができるだろう。

本当に手ごわいのは、悪魔の王国に存在すると言われる、『太陽神』だ。

この太陽神について、わたしたちの知るところによれば、夜空においてわたしたちが見ることのできる星空の星々を、その通り写し取ったものであるとされている。

わたし、ヘイムダルは、この意味が分からない。アースガルズのどの神々にも、『太陽神』と呼ばれる存在が一体どういうものなのか、オーディン以外は知ることがない。

だが、唯一、そのオーディンだけが、かつてたったひとりでその領域に到達することができ、『太陽神』とはなんなのか、ということを知ることができた。

曰く、そこには、『宇宙のすべて』が存在し、オーディンは『宇宙そのものと戦わなければならなかった』と言う。

オーディンは、『わたしの相手にしたものは宇宙そのものだった。宇宙そのものに勝利し、宇宙そのものを打ち倒さなければならなかった』と語っている。

そう、暗黒の大地を越えて、悪魔の王国に踏み進んだとして、わたしたちは、オーディンの言うように、『宇宙そのもの』に立ち向かい、『宇宙そのものに勝利』しなければならないのだ。」

大魔王ゾルゲ

ヘイムダルはさらに言う。

「もし、そのような『太陽神』に打ち勝つことができたら、おそらく、わたしたちは敵の住居である、『大魔王の塔』へと到達できる。

この大魔王の塔の最上階に、おそらく、わたしたちが見たこともなければどのような人間かを知ることもない、『大魔王ゾルゲ』が住居を構えている。

この大魔王ゾルゲが、事実上の敵のトップであり、エリカがどこに幽閉されているかということも大魔王ゾルゲを捕えれば分かる。エリカを救う方法も大魔王ゾルゲを倒すことで見えてくるだろう。

そして、この大魔王ゾルゲだが、はっきり言って、まったく情報が存在しない。

わたしたちは、大魔王ゾルゲについて、『ルシフェルやほかの悪魔の頂点にいる、ものすごく強くて凶悪な存在』であるとしか知ることができない。

だが、大魔王ゾルゲとわたしたちが、まったく交流がなかったわけではない。

大魔王ゾルゲは、オーディンと仲が悪く、オーディンがこの世界をすべて正義の世界政府として統治しようとするにもかかわらず、大魔王ゾルゲだけがこれに反対し、以来、オーディンと大魔王ゾルゲの対立は何百年単位で続いている。

最強の魔法力を持つオーディンであっても、大魔王ゾルゲだけは倒すことができない。

それ以上、わたしたちには、踏み込んだことは分からない。だが、オーディンが倒すことのできない敵を、果たしてわたしたちがいくら集まっても倒せるだろうか。最強のオーディンがヴァルハラを離れるわけにはいかないため、わたしたちの力で、最強のオーディンと比類する大魔王ゾルゲを倒す必要がある。これは並大抵のことではない。」

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