AUTHOR: schwarz1009
TITLE: 新しい人間の名はチャック
BASENAME: 2021/03/13/202548
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DATE: 03/13/2021 20:25:48
CATEGORY: チャック
新しい人生の名を、
井上茜とかリカとか、女の名前を付け続けてきたが、
これはもう諦める。
なぜなら、女と恋愛する気なら、
男の名前の方がいい。
新しい男の名前をチャックとする。
名前の由来は、芥川龍之介の河童に出てくる河童の名前だ。
同時に、スヌーピーの飼い主であるチャーリーの愛称もチャックだ。
チャーリーが大好きなペパーミント・パティーなどは、
主人公チャーリー・ブラウンのことをチャックと呼ぶ。
チャックはチャーリーやチャールズなどの愛称と知られる、
欧米ではありふれた名前である。
チャック(チャーリー)は、優しい普通の18歳の男である。
友達はアンディーとクリス。
また、チャックは17歳のフローラ(フローレンス)に恋心を寄せている。
チャックの問題は、やることがなんにもない。
暇と時間を持て余している。
チャックの嫌いなものは、大学とパソコン。
大学の科学と、パソコンのソースコードは、吐き気がするほど嫌いだ。
特に、数式だけは見たくない。
この世界すべてが大嫌いなチャックは、
キリスト教も、仏教も、芸術も、漫画・アニメ・小説も、
ゲームも、音楽も、外国も、日本も、思想も、学問も、
すべてのものが大嫌いになった。
また、女性というものが大嫌いで、誰からも愛されたくない。
しかしながら、フローラだけは例外だった。
フローラと話していると、自分の醜悪さが正常化されて、
綺麗になって、美しくなって、楽しくなって、
心が燃え上がると同時に優しい「本当の自分」で居られる。
結果、チャックはフローラに会えない間、
ほかになんにもやることがなく、
テレビもネットも見ずに、適当に音楽を聴いて暇と時間を持て余すのである。
しかしながら、フローラに愛されていると思っている、
馬鹿なチャールズは幸せものである。
フローラはチャックのことを完全に馬鹿だと思っている。
フローラがチャックに対して笑う笑みはすべて嘲笑であり、
フローラはチャックのことをまったく愛していない。
しかしながら、チャックは本当はそれに気が付いている。
だから、たまにフローラと言い争いになることもある。
しかしながら、フローラは内心、言い争っていることそのものが、
完全にどうでもいい。
自分が勝とうが負けようが、どうでもいいとしか思っていない。
単に自分の面白い遊び道具・おもちゃで居てくれればそれでいい、
フローラはそれしか考えていない。
完全にフローラに騙されているということを、
チャック本人だけが知らない。
アンディーも、クリスもそれを知っていて、
チャックに「あんな女はやめた方がいい」という提言をする。
しかしながら、チャックは「あの女がいなければ、僕には意味がない」と、
そう思ってしまっているのである。
しかしながら、チャックはふとした出会いをしてしまう。
それは、バスの停留所で知り合った少女ミシェル。
ミシェルは、素朴な女の子で、根暗であったため、
落とした眼鏡を拾ってくれたチャックの優しさに、
すぐさま逃げるように去ろうと思っていた。
しかしながら、チャックはその落とした眼鏡が割れているのに気付き、
そしてそれを割ったのが自分であることにも気付いた。
ミシェルは、それを上手く言い出すことのできないチャックに対して、
「いいんです、すみません、わたしなんか」と言って、
チャックは「わたしなんかって、なんでですか」と言ってしまい、
二人は見つめ合ってしまって、
そしてチャックは何を思ったのか、そこから逃げ出そうとしてしまい、
その手をミシェルが掴んでしまった。
ここから、フローラに騙された哀しい男チャックは、
フローラと決別し、ミシェルと付き合うことを決めるのであった。
このように、チャックは新しい運命の相手を見つけ、
それと付き合うことで真実の愛を見つけたと錯覚する。
しかしながら、実際のところ、
ミシェルはチャックのことなどまったく覚えていない。
ミシェルには最愛の恋人であるガブリエルが居て、
ミシェルはチャックのことを「優しい男の子」として思っていない。
そのため、チャックはここでさらに騙されている。
不幸なチャックの人生は、
このように欲望と堕落の中でさらにおかしくなっていくのである。
しかしながら、チャックは単に馬鹿な人間ではない。
なぜなら、チャックはフローラとミシェルの間で、
自らの苦悩する欲望と葛藤の中で、
どちらを選ぶべきかを真剣に考え続けるからである。
そして、アンディーやクリスの助言に従い、
ミシェルと付き合おうとするが、
その結果フローラとの仲が険悪になり、
フローラとの憎しみの応酬が始まっていくのである。
チャックは語る。
「わたしは、フローラ以上の女性は居ないと思っていた。
彼女といると、
自分の心が平安になり、あらゆるすべての緊張感が解け、
真に安定した精神を奪還し、すべてを忘れて嫌いなものを許すことができた。
しかしながら、そのような時、
フローラはまったくわたしの心を知らないかのように、
平然とわたしを突き放してしまう。
それすらも、わたしは愛だと思っていた。
しかしながら、その愛は、
単に『わたしが愛されたい』という愛であって、
『わたしが誰かのことを愛したい』という愛ではなかった。
わたしはミシェルと出会うことで、
誰か他人のことを『幸せにしてあげたい』と思うようになった。
不遇な彼女の人生を、
わたしは変えてみせると確信してしまった。
彼女の不遇な人生を、わたしが救世主となって救い出せると確信してしまった。
そして、わたしにはその力があるのだと、確信するに至ったのだ。
そう、わたしが考えるに、
これこそが真なる愛なのである。
そして、ミシェルという少女が、
どこにいるのか、どこで誰と過ごしているのかは分からなくても、
わたしのことをなんとも思っていない、
フローラという女性と決別する覚悟を、
わたしはするに至ったのだ。」
フローラはチャックに対して言う。
「ミシェルって子と知り合ったんだって?」
チャックは言う。
「ああ。」
フローラは言う。
「どこにいるかも分からない少女だって?」
チャックは言う。
「ああ、そうだよ。」
フローラは言う。
「それで、わたしよりもいい女を見つけたんだって?
本気で言っているの?」
チャックは言う。
「本気だよ。
君のことは大好きだけど、
本当に、彼女のことを幸せにあげたいと思うようになったんだ。
ごめん。」
フローラは言う。
「何を言っているの?」
チャックは言う。
「いや、おかしい、っていうことは分かっているんだ。
でもさ、
君、僕のことを愛しているっていうけどさ」
チャックがそう言った途端、フローラは怒りだした。
「わたしが愛していないとでも?」
チャックは言う。
「いや、そうじゃないんだ。
でも、僕は」
フローラは言う。
「いいよ、わたしと離別したいっていうんなら、
いいよ。
あんたなんか大っ嫌いだから、
いいよ。
もう一度言おうか。
あんたなんか大っ嫌いだから、
いいよ。」
そして、フローラは去っていった。
フローラはその先、チャックに姿を見せることはなかった。
このことをきっかけに、
チャックはアンディーにもクリスにも笑顔を見せなくなった。
よく考えてみれば、
フローラの言っていることはまっとうであり、
むしろ、どこにいるのかよくわからない少女ミシェルのことを、
幸せにしてあげたいなどと、
彼女の前でよく言えたものだと、
反省するようになった。
チャックはしばらく外出することもなくなり、
YouTubeで音楽を聴いていても、
上の空で、心がからっぽになり、何もしようとする気が起きなくなった。
しかしながら、犠牲者はチャックだけではない。
フローラもまた、
恋人を失って泣いていたのだ。
フローラは、チャックが好きだった。
チャックのことを本当に愛していて、
自分の心に嘘などなかった。
それなのに、自分の心が愛していないのだと、
そう言われたのが、
自分の今までの心のすべてを失ったように感じて、
フローラは傷ついたのだ。
フローラとチャックは、
もう一度、やり直すことになる。
チャックは目の前に姿を現さないフローラのことを、
必死で探し、
フローラがどこにいるのか分からない中でも、
自らの「もう一度やり直そう」という言葉を言いたくて、
なんどもなんどもその言葉を練習していた。
そして、そのさなか、
フローラはバス停の停留所に姿を現した。
それは、ミシェルに出会ったのと、同じ停留所だった。
フローラは、チャックのことを見て、
何かを言おうとしているチャックに対して、
「分かっているよ。
やり直したいんでしょ?」と言った。
チャックは、
「ごめん。本当に、ごめん。
でも、言いたかったんだ。
僕は、君のことを愛しているんだ。
もう、やり直さないと君が言うなら、
それでいいんだ。
でも言いたかったのは、
やり直したいってことじゃない。
僕はやり直すことがもしできなくても、
今でも君のことを、
まったく変わらない同じ気持ちで愛しているんだ。
それだけを伝えたかったんだ。」と言ったのだ。
フローラはそれに対して、
「わたしはね。
あなたがそれを伝えたかったからと言うなら、
言いたいことがあるわ。
わたしもあなたのことを愛しているのよ。
さあ、あなたが決めて頂戴。
わたしを選ぶの?
それとも、その少女のことを選ぶの?」と言った。
チャックは、
「何を言っているんだよ。
君に決まっているよ。」と言ったのだ。
そしてフローラは、
「そうね。
じゃあ、わたしがもう、ミシェルって子を見つけているから、
ミシェルさん、登場してもらおうかしら。」
チャックは驚いたように向こう側を見ると、
そこにはミシェルが立っていて、
ミシェルは、
「ごめんなさい。
わたし、ガブリエルっていう彼氏がいるのよ。
なんだか、悪いのはわたしみたいね。」と言って、
最後に三人は、大爆笑して、
この話は一件落着となったのである。
しかしながら、フローラが最後に言った言葉は、
チャックに重くのしかかった。
フローラは、「もし、ミシェルさんのことが好きだって、
その同じ舌で言うことがあったら、
その舌は抜いちゃった方がいいわね。」